シーン3 「セシル登場」
「へぇ」
突然。
真後ろから声がした。
レオノーラ・ヴァレンシュタイン
の肩がびくりと跳ねる。
反射的に振り返った。
そこにいたのは。
セシル・アークライト
だった。
いつの間にか。
本当にいつの間にか。
中庭噴水の縁へ腰掛け、
こちらを見ている。
銀灰色の髪。
気だるげな目。
無駄に整った顔。
そして何より。
気配がなかった。
完全にゼロだった。
怖い。
レオノーラは胸を押さえた。
「……貴方、足音を置いてきましたの?」
セシルはあっさり答える。
「面倒だから」
最低だった。
何が面倒なのか。
存在感か。
レオノーラは真顔になる。
「人間は普通、足音込みで移動いたしますのよ」
「知ってる」
「改善してくださいまし」
「善処はする」
絶対しない返事だった。
一方セシルは、
レオノーラの手元へ視線を落としていた。
魔力測定器。
学園地図。
大量のメモ。
そこへ書き込まれた、
『イベント発生地点』
の文字。
セシルの口元が少しだけ歪む。
「何してる?」
レオノーラは測定器を握り直した。
「監査ですわ」
「恋愛を?」
「災害を」
即答。
セシルが吹き出した。
珍しく声を出して笑っている。
「ははっ」
「何がおかしいんですの」
「いや」
彼は噴水の水面を見る。
まだ微妙にキラキラしている。
完全に異常現象である。
「君だけだよ」
一拍。
「恋愛イベントを“災害分類”してるの」
「だって爆発しておりますもの」
それはそう。
レオノーラは腕を組む。
「橋は崩落し、校舎は半壊し、給水塔は吹き飛びましたわ」
「青春だな」
「災害ですわ」
会話が成立していた。
しかも驚くほど自然に。
レオノーラは少しだけ違和感を覚える。
この男。
話が速い。
余計な説明をしなくても通じる。
それが少し腹立たしかった。
一方、
セシル・アークライト
は測定器へ興味深そうに指を向ける。
「で?」
「で?」
「結果は」
レオノーラは少し迷ったあと、
地図を見せた。
温室。
第二回廊。
噴水。
赤い印が並んでいる。
「イベント発生地点だけ、
空間魔力が歪んでおります」
セシルの目が細くなる。
「へぇ」
今度は本気で興味を持った声だった。
レオノーラは続ける。
「しかも感情変動に連動して数値が増加しますの」
「恋愛感情で?」
「おそらく」
セシルは少し黙った。
そして。
小さく笑う。
「面白いな、この学園」
レオノーラは即答した。
「最悪ですわよ」




