シーン2 「調査開始」
レオノーラ・ヴァレンシュタイン
の巡回は、本格的に始まった。
もはや散歩ではない。
完全に現地調査である。
最初に訪れたのは、
かつて“空飛ぶ薔薇庭園”が墜落した温室跡地だった。
現在も修復中。
割れたガラスはまだ撤去しきれておらず、
修復班が脚立を立てて作業している。
その横をレオノーラが歩く。
手には魔力測定器。
ジジ……。
針が揺れた。
「やはり」
彼女はしゃがみ込み、
床へ触れる。
空気が微妙に震えている。
目には見えない。
だが確かに、
魔力が渦を巻いていた。
しかも妙だ。
普通の残留魔力ではない。
もっと粘つくような。
感情の余熱みたいな揺らぎ。
その時。
近くで女子生徒たちが話し始めた。
「ここで王子殿下が薔薇を……」
「きゃー素敵……!」
瞬間。
ピィィィィッ!!
測定器が急反応。
レオノーラが顔を上げる。
「……今、数値が増えましたわね?」
女子生徒たちはきょとんとしている。
しかし測定器は確かに反応していた。
感情に共鳴している。
レオノーラの背筋に寒気が走る。
次の現場。
第二回廊。
壁ドン崩壊事件跡地。
修復工事中の壁には、
まだ薄く薔薇模様の焼け跡が残っていた。
レオノーラは壁へ測定器を向ける。
ブゥゥン……。
今度は低く振動した。
空気が妙に重い。
しかも。
近くを通った女子生徒二人が、
「ここで壁ドンが……」と囁いた瞬間。
壁が微かに発光した。
レオノーラ、無言。
「やはりですわね」
もう嫌だった。
さらに彼女は中庭噴水へ向かう。
そこは以前、
“告白失敗洪水事件”
が発生した場所である。
なお意味は不明。
噴水前ではカップルが談笑していた。
その瞬間。
水面がキラキラ光り始める。
測定器、絶叫。
ピィィィィィィッ!!
「うるさいですわね!」
レオノーラは慌てて音量を押さえた。
周囲の生徒がぎょっとする。
だが彼女は真顔だった。
共通している。
すべての場所で。
空気が歪んでいる。
魔力流が偏っている。
そして。
人の感情に反応して増幅する。
恋愛感情。
憧れ。
ときめき。
そういう“イベント性”が高まるほど、
現象が強くなる。
レオノーラは地図へ印を書き込み始めた。
温室。
回廊。
噴水。
どれも線で繋がる。
まるで学園そのものに、
“イベント発生地点”
が存在するみたいに。
そこで彼女は静かに呟いた。
「……場所が“イベント化”しておりますわね」
その瞬間。
後ろから声がした。
「へぇ」
レオノーラの肩がびくっと跳ねた。




