シーン6 「ガイウスの悩み」
崩れた回廊の片隅。
修復班が瓦礫を運び、
教師たちが安全確認を行う中、
ガイウス・ベルンハルト
は珍しく小さくなっていた。
巨体なのに。
妙にしょんぼりしている。
レオノーラはそれを見て、少しだけ意外に思った。
もっとこう。
「愛の力だ!」とか言い出すタイプかと思っていた。
だが実際は。
本気で困っている顔だった。
ガイウスは崩れた壁を見ながら、ぼそりと呟く。
「……最近、変なんだ」
レオノーラが視線を向ける。
「変?」
「ああ」
ガイウスは頭を掻いた。
少し言いづらそうに。
「感情が高ぶると、勝手に演出が始まる」
レオノーラは黙って聞く。
「風が吹いたり」
「花が舞ったり」
「空が光ったり」
「突然BGMみたいなの聞こえたり」
「BGM」
「聞こえないか?」
「わたくしにも最近うっすら聞こえておりますわ」
嫌な慣れ方だった。
ガイウスは真剣な顔で続ける。
「しかも周囲も勝手に盛り上がるんだ」
「でしょうね」
「普通に話してるだけなのに、“決闘だー!”とか言われて」
「ええ」
「気づいたら戦ってる」
「怖いですわね」
「怖い」
真顔だった。
どうやら本人も被害者である。
ガイウスはため息をついた。
「この前なんか、廊下でぶつかっただけで夕焼けになった」
「時間帯は昼でしたわよね?」
「昼だった」
意味がわからない。
「しかも女子たちが泣いてた」
「なぜ」
「俺にもわからん」
本当にわかっていなかった。
レオノーラは静かに考える。
攻略対象たちは、
この世界を楽しんでいる加害者側だと思っていた。
だが違う。
少なくとも全員がそうではない。
この男は。
“イベント”に振り回されている。
そしてガイウスは、小さく本音を漏らした。
「俺は普通に話したいだけなんだが……」
その言葉に。
レオノーラは少しだけ目を見開いた。
初めてだった。
攻略対象側から、
“普通”を望む声を聞いたのは。
恋愛イベント。
運命演出。
感情増幅。
偶然の事故。
それらは。
攻略対象自身の意思すら超えて発動している。
つまり。
この世界の“強制力”は、
彼らすら巻き込んでいる。
レオノーラは静かに呟く。
「……やはり、異常ですわね」
ガイウスが苦笑する。
「今さらか?」
「今までは“恋愛脳が多い世界”だと思っておりましたの」
「違ったのか?」
「世界そのものが恋愛脳でしたわ」
それはかなり終わっていた。




