シーン5 「ガイウス謝罪」
崩れた回廊に、粉塵が漂っていた。
修復班が瓦礫をどかし始め、
教師たちが避難誘導を行い、
遠くでは誰かがまだ「尊い……」とか言っている。
終わっている。
そんな混乱の中。
ガイウス・ベルンハルト
は、青ざめた顔で立っていた。
ようやく事態の深刻さを理解したらしい。
崩れた壁を見る。
折れた柱を見る。
粉塵まみれの
レオノーラ・ヴァレンシュタイン
を見る。
そして。
「……すまん」
ちゃんと謝った。
レオノーラは一瞬、目を瞬かせる。
(謝りましたわ……)
攻略対象なのに。
この世界の攻略対象たちは基本的に、
「愛だから!」
で全部押し通してくる生き物である。
なのにこの男。
普通に反省していた。
レオノーラは少しだけ毒気を抜かれる。
改めて見ると、
ガイウス・ベルンハルト
は典型的な騎士だった。
体格が良い。
真面目そう。
脳筋っぽい。
だが目つきは誠実だ。
悪人ではない。
たぶん細かいことを考えるのが苦手なだけである。
ガイウスは困ったように頭を掻いた。
「その……別に壊すつもりじゃなかった」
「当たり前ですわ」
レオノーラは即答した。
「最初から校舎破壊を目的に壁ドンする方が怖いですもの」
「それもそうだな……」
素直だった。
ガイウスは崩れた壁を見る。
本当に困惑している。
「気づいたら光ってた」
「ええ」
「なんか空気が盛り上がって……」
「ええ」
「気づいたら爆発した」
「いつもの流れですわね」
完全に慣れてしまっている自分が嫌だった。
ガイウスは眉をひそめる。
「……俺、そんなに力入れてないんだ」
「でしょうね」
「なのに壁が急に軋んで……」
そこで彼は言葉を止めた。
妙な沈黙。
レオノーラは静かに口を開く。
「わたくしも最近」
一拍。
「世界の方を疑い始めております」
ガイウスが顔を上げる。
周囲の喧騒が遠くなる。
「世界?」
「ええ」
レオノーラは崩れた壁を見る。
薔薇模様の焼け跡。
不自然な魔力痕。
明らかに“恋愛演出”を優先したような崩壊。
「貴方が悪いというより……」
静かに。
「この世界、“そうなるように”動いておりますもの」
ガイウスは黙る。
冗談ではないと理解したからだ。
その時。
後ろで
バルド
の怒鳴り声が響いた。
「誰だ柱に薔薇模様刻んだのぉぉぉ!!」
「俺じゃない!!」
ガイウスが即答した。
レオノーラは思った。
(たぶん本当に違いますわね……)
世界側の仕業である。




