シーン4 「レオノーラ激怒」
粉塵が舞っていた。
崩れた壁。
砕けた柱。
半壊した回廊。
ついさっきまで“胸キュンイベント”が発生していた場所とは思えない。
完全に災害現場だった。
その中央で。
ゆらり、と。
レオノーラ・ヴァレンシュタイン
が立ち上がった。
粉塵まみれ。
ドレスは灰色。
髪には瓦礫の欠片。
だが姿勢だけは崩れない。
そして。
額に青筋。
ついにキレた。
「――情熱で建築基準法を無視しないでくださいまし!!」
響き渡る絶叫。
学園全体が静まり返った。
誰も喋らない。
風だけが吹く。
遠くで瓦礫が崩れる音。
完全沈黙。
一方、
ガイウス・ベルンハルト
は呆然としていた。
「け、建築……?」
そこに来るとは思わなかったらしい。
しかしレオノーラは止まらない。
今まで積もり積もった怒りが爆発していた。
「壁ドンに耐震基準は含まれておりませんの!!」
正論。
「恋愛感情で柱へ魔力を流さないでください!!」
正論すぎる。
「なぜ感情表現のたびに建造物へ負荷がかかりますの!?」
それは本当にそう。
周囲の生徒たちはぽかんとしていた。
誰もそんな視点で恋愛イベントを見たことがない。
普通は。
壁ドンといえば。
胸キュン。
赤面。
ときめき。
そういうものである。
なのにこの女。
耐震強度の話をしている。
発想が完全に監査官だった。
レオノーラは崩れた柱を指差す。
「見てくださいまし!!」
全員が反射的にそちらを見る。
「この柱、完全に魔力共鳴で内部から割れておりますわ!!」
なぜわかるのか。
「しかも荷重分散が崩壊しております!! このままでは第二回廊全域が――」
ミシ。
嫌な音。
全員の顔が固まる。
次の瞬間。
ドガシャアァァン!!
追加崩落。
「きゃあああ!?」
「まだ崩れるのかよ!?」
悲鳴。
修復班が頭を抱える。
レオノーラはこめかみを押さえた。
「ほらぁ!!」
説得力が物理だった。
一方、女子生徒たちはまだざわついている。
「でも……あの壁ドン、すごかったよね……」
「運命感じた……」
レオノーラが振り返る。
にっこり笑顔。
怖い。
「運命で校舎は修復されませんわよ?」
女子生徒たち、静かに目を逸らした。
その時だった。
後ろから小さく声がする。
「……すまん」
レオノーラが振り返る。
そこには、
ガイウス・ベルンハルト
が立っていた。
困った顔で。




