シーン3 「校舎、逝く」
壁が発光していた。
嫌なほど眩しく。
嫌なほどロマンチックに。
ガイウス・ベルンハルト
の腕がついた壁面から、金色の紋様がじわじわ広がっていく。
薔薇。
羽根。
星。
なぜかハート。
建築材に必要な装飾では絶対になかった。
周囲の女子生徒たちは完全に盛り上がっている。
「きゃあああ!!」
「空間演出まで!!」
「運命感じるー!!」
運命感じている場合ではない。
一方、
レオノーラ・ヴァレンシュタイン
は真っ青だった。
(魔力が集中しすぎていますわ……!)
まずい。
非常にまずい。
壁ドンという極めて局所的なイベントへ、学園規模のロマンチック演出魔力が流れ込んでいる。
負荷が明らかにおかしい。
ミシ……。
壁が鳴った。
ガイウスが眉をひそめる。
「……え?」
ミシミシミシッ。
音が大きくなる。
柱まで震え始めた。
レオノーラが叫ぶ。
「離れなさいまし!!」
だが。
間に合わなかった。
ドゴォォォォンッ!!!
爆音。
壁、崩壊。
石材が吹き飛ぶ。
柱破損。
天井亀裂。
窓ガラス全滅。
粉塵が爆発みたいに広がった。
「きゃああああ!?」
「逃げろぉぉ!!」
「校舎がぁぁ!!」
阿鼻叫喚である。
第二回廊が崩れ、
そのまま隣接区画まで巻き込んだ。
天井が落ちる。
床が揺れる。
教師が腰を抜かす。
一人失神した。
完全に災害だった。
その中で、
ガイウス・ベルンハルト
だけが反射的にミレイユを抱えて飛び退く。
騎士としての反応速度だけは本物だった。
瓦礫が降り注ぐ。
悲鳴。
砂煙。
遠くで鐘。
なぜ鐘。
その時にはもう、
バルド
率いる修復班が走ってきていた。
「またかぁぁぁ!!」
「今度は何系だ!?」
「壁ドン系です!!」
「重てぇな!!」
分類されている。
一方、生徒たちは逃げ惑っていた。
しかし。
女子生徒たちだけ、反応がおかしかった。
「なんて情熱的……!」
「壁まで壊すなんて愛が重い……!」
「尊い……!」
価値観が終焉していた。
もはや恋愛脳というより災害適応である。
その中心で。
粉塵まみれになった
レオノーラ・ヴァレンシュタイン
が、ゆっくり立ち上がる。
髪に砂。
ドレスに瓦礫。
こめかみに青筋。
そして彼女は、ついに叫んだ。
「だから言いましたでしょうがぁぁぁ!!」




