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悪役令嬢、予算書を叩きつける  作者: 南蛇井


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22/110

シーン2 「壁ドン現場」

 中庭横の第二回廊は、異様な熱気に包まれていた。


 人だかり。


 ものすごい人だかり。


 特に女子生徒の密度が高い。


「きゃあああっ!」


「始まる!」


「壁ドンですって!」


「近い近い近い!!」


 興奮している。


 完全にイベント鑑賞モードだった。


 一方その頃、

 レオノーラ・ヴァレンシュタイン

 は人波をかき分けながら現場へ急行していた。


「通してくださいまし!」


「あっ、ロマンス破壊令嬢だ!」


「来たぞ!」


 なぜ通称が定着しているのか。


 しかし今はそれどころではない。


 レオノーラは群衆の隙間から中央を見る。


 そして頭を抱えた。


(もう始まっておりますわ……!)


 中央にいたのは、

 ガイウス・ベルンハルト

 と、

 ミレイユ・フェルナン

 だった。


 完全にイベント空間である。


 空気が違う。


 背景がキラキラしている。


 風が妙に甘い。


 なぜか花弁まで舞っている。


 学園の気合いが入っていた。


 その時。


「あっ……!」


 ミレイユが足を滑らせた。


 小さく体勢を崩す。


 ガイウスが反射的に手を伸ばす。


「危ない!」


 支える。


 引き寄せる。


 ミレイユの背中が壁へ。


 ガイウスの腕が、その横へ叩きつけられる。


 ドン。


 静止。


 一瞬の沈黙。


 次の瞬間。


「きゃあああああ!!」


 女子生徒たちの悲鳴が爆発した。


「壁ドン!!」


「本物!!」


「近い!!」


「顔が近い!!」


 うるさい。


 一方、

 ガイウス・ベルンハルト

 本人は困惑していた。


「え?」


 ただ支えただけである。


 しかしもう遅かった。


 運命律が反応する。


 ゴォォ……。


 低い魔力音。


 壁が淡く発光し始めた。


 レオノーラの顔色が変わる。


「――っ」


 さらに。


 壁面へ薔薇模様が浮かび上がる。


 意味不明。


 どこからともなく風。


 ミレイユの銀髪がふわりと舞う。


 鐘の音まで鳴った。


 なぜ鐘。


 誰が鳴らしている。


 しかも周囲の空気が、明らかに熱を帯び始めていた。


 ときめき。


 感動。


 青春。


 そういう“イベントエネルギー”が、空間へ充満していく。


 レオノーラだけが気づく。


 これはまずい。


 前回と同じだ。


 いや、もっと危険かもしれない。


 壁へ魔力が集中している。


 嫌な音がする。


 ミシ……。


 ミシミシ……。


 建材の悲鳴だった。


 レオノーラは叫んだ。


「まずいですわ!!」


 だが。


 その声は、女子たちの歓声にかき消された。


「もっと近づいてー!!」


「きゃー!!」


 校舎の危機より恋愛優先である。


 終わっていた。

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