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悪役令嬢、予算書を叩きつける  作者: 南蛇井


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シーン4 「物語の後」

夜になっていた。


雨はもう止んでいる。


窓の外、

濡れた石畳へ街灯の明かりが淡く映っていた。


喫茶店の中には、

静かな灯りだけが残っている。


客はいない。


食器を片付ける音が、

小さく響く。


楽しかった時間は、

いつの間にか終わっていた。


だが、

それは昔みたいな“幕引き”ではない。


ただ、

夜になっただけだ。


アルベルトが椅子を引き、

立ち上がる。


「じゃあ、そろそろ行くか」


「明日、朝早いんでしたっけ」


ミレイユが尋ねる。


「ああ。

 港の方へ顔出さないといけなくてな」


「働いておりますのね」


「お前、

 俺をなんだと思ってるんだ」


レオノーラは、

少しだけ肩を竦めた。


セシルは欠伸を噛み殺しながら立ち上がる。


「俺も帰る。

 最近寝不足でさ……」


「また夜更かしして研究してたんですか?」


「違ぇよ。

 ただ普通に夜更かししてた」


「駄目な大人です」


ベアトリクスが即答する。


「否定できねぇ……」


小さな笑い。


ミレイユはコートを羽織りながら、

店の中を見回した。


どこか、

少し名残惜しそうだった。


けれど。


昔みたいに、

「これが最後かもしれない」

なんて空気はない。


別れが、

終幕ではなくなった。


だから彼女は、

ちゃんと笑える。


「また来ますね」


レオノーラは頷いた。


「ええ」


それだけ。


大げさな約束もない。


涙もない。


劇的な別れの演出もない。


けれど。


ちゃんと、

次がある。


それが今の世界だった。


扉の鈴が鳴る。


一人ずつ、

皆が夜の街へ消えていく。


やがて店内には、

レオノーラだけが残った。


静かな空間。


片付け終えたテーブル。


微かに残る珈琲の香り。


彼女は、

ゆっくり窓の外を見る。


普通の夜だった。


空には、

静かな月。


雲がゆっくり流れている。


もう、

巨大魔法陣はない。


観客席もない。


誰も見ていない空。


拍手もない。


歓声もない。


感動的な音楽も流れない。


それでも。


世界は、

ちゃんと続いていた。

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