シーン2 「続いていく人生」
店の奥の丸テーブルへ、
料理が並べられていく。
焼きたてのパン。
温かなスープ。
香草入りの肉料理。
そして、
少し濃い目のコーヒー。
豪華ではない。
けれど、
どれも丁寧だった。
窓の外では、
まだ雨が降っている。
静かな午後。
皆、自然に席へ座っていた。
昔なら。
この面子が集まれば、
世界の命運だとか、
運命律の暴走だとか、
観測者の陰謀だとか。
そういう話になっていたはずだった。
だが今、
テーブルの上にあるのは。
「最近、漁港の景気が悪いらしい」
アルベルトのそんな話だった。
「北側航路の流れが変わったとかで」
「魚の値段、少し上がっておりますわね」
レオノーラがスープを置きながら答える。
セシルはパンを齧りつつ、
面倒そうに肩を竦めた。
「税制変更も地味に痛ぇ」
「お前、
ちゃんと税払ってるんだ……」
ミレイユが少し驚く。
「失礼だな」
「払ってなさそうですもの」
「レオノーラまで乗るな」
また小さな笑いが起きる。
ベアトリクスは、
静かにメモを取っていた。
「最近、風邪が流行しています」
「お前、その情報どこから拾ってくるんだよ……」
「統計です」
「怖ぇよ」
世界を救う話は、
誰もしない。
英雄も。
終末も。
神も。
観測者も。
今この場にあるのは、
眠いとか、
不況とか、
最近パンが高いとか。
そんな話だけだった。
けれど。
不思議と、
嫌ではなかった。
ミレイユは、
静かに笑っていた。
昔の彼女は、
いつもどこか張り詰めていた。
“主人公”だったからだ。
期待され。
見られ。
世界を背負わされていた。
だが今の彼女は違う。
ただ、
友人たちと食事をしているだけ。
それだけなのに。
以前よりずっと、
自然に笑っていた。
セシルが、
コーヒーを飲みながら呟く。
「退屈だな」
全員が視線を向ける。
彼は気怠そうに椅子へ凭れかかった。
「世界崩壊も、
神殺しも、
最近ねぇし」
「平和というものですわ」
レオノーラが即座に返す。
「刺激は減った」
セシルはカップを回しながら言う。
少し間。
そして。
「でも――」
小さく肩を竦める。
「胃痛も減った」
沈黙。
その直後。
ミレイユが吹き出した。
アルベルトも笑う。
ベアトリクスですら、
ほんの少しだけ口元を緩めた。
レオノーラは、
呆れたようにため息を吐く。
「以前のお前は、
常に胃薬を携帯しておりましたものね」
「世界の秘密知ってからずっと胃が終わってたんだよ」
「弱すぎません?」
「お前らが強すぎるんだよ……」
また笑いが起きる。
派手な奇跡はない。
劇的な展開もない。
けれど。
こうして、
食卓を囲んで笑っている。
それだけで、
十分だった。




