シーン1 「偶然のない再会」
雨が降っていた。
王都の石畳を、
細かな雨粒が静かに濡らしている。
喫茶店の窓ガラスにも、
小さな水滴が流れていた。
昼下がり。
客は少ない。
奥の席で、
老人が一人、眠そうに紅茶を飲んでいるだけだった。
店内には、
静かな雨音と、
食器の触れ合う微かな音が響いている。
レオノーラ・ヴァレンシュタインは、
カウンターの内側でカップを磨いていた。
白い布。
磨かれた陶器。
単調な作業。
かつてなら、
退屈だと感じたかもしれない。
けれど今は、
嫌いではない。
むしろ、
落ち着く。
そんなことを考えていた時だった。
ちりん。
扉の鈴が鳴る。
レオノーラが顔を上げる。
入ってきたのは、
アルベルトだった。
黒い外套。
少し濡れた髪。
昔より、
肩の力が抜けている。
かつては、
“主人公”みたいな光を纏っていた男。
だが今は違う。
普通に疲れた顔をしていた。
アルベルトは店内を見回し、
レオノーラを見つける。
少しだけ、
目を丸くした。
その直後。
「……うわ、本当にここだったのか」
後ろから、
呆れた声。
セシルだった。
傘を雑に閉じながら、
不機嫌そうに入ってくる。
さらにその後ろから、
ミレイユとベアトリクス。
ミレイユは小走りで、
ベアトリクスは相変わらず無表情気味だった。
誰も、
劇的に現れない。
雷も鳴らない。
風も吹かない。
懐かしさを煽るBGMもない。
ただ、
雨宿りみたいに入ってきた。
少し沈黙。
レオノーラは、
磨いていたカップを棚へ戻す。
昔なら。
ここで運命的再会演出が入っていた。
スローモーション。
感動。
涙。
観客の歓声。
けれど今は、
そんなものはない。
アルベルトは、
少しだけ視線を逸らしながら言った。
「……久しぶりだな」
普通の声だった。
レオノーラも、
普通に返す。
「ええ。
二週間ぶりですわね」
「短ぇな」
セシルが即座に突っ込む。
ミレイユが吹き出した。
「でも、
なんか久しぶりな感じしない?」
「雨だからでは?」
ベアトリクスが淡々と言う。
「湿度は感傷を増幅します」
「そういう問題か?」
また少し、
笑いが起きた。
静かな店内。
窓の外では、
雨が降り続いている。
誰も、
“物語の再会”なんてしなかった。
昔みたいな劇的さもない。
けれど。
席へ座る彼らの姿を見ながら、
レオノーラは思う。
ああ。
ちゃんと、
嬉しいのだと。




