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悪役令嬢、予算書を叩きつける  作者: 南蛇井


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232/250

シーン4「観測者動揺」

空が、

 ざわついていた。


 巨大観客席。


 無数の影。


 無数の目。


 その全てが、

 レオノーラ・ヴァレンシュタインを見ている。


 だが。


 今までとは違った。


 熱狂ではない。


 困惑。


 理解不能。


 観測者たちは、

 明らかに動揺していた。


『なぜ壊れない』


『なぜ従わない』


『悪役なのに』


『断罪される役だろ』


『嫌われる側だろ』


『なら、

 絶望するはずだ』


 声。


 声。


 声。


 無数の感情が、

 空を軋ませる。


 観測者たちは、

 本気で理解できていなかった。


 彼らにとって、

 “役割”とは絶対だった。


 主人公なら、

 希望を背負う。


 悪役なら、

 破滅する。


 脇役なら、

 消える。


 そういうものだと、

 信じていた。


 だから。


 悪役令嬢でありながら。


 誇りも。


 意志も。


 人格も失わないレオノーラが、

 理解できない。


 処刑台の上。


 レオノーラは、

 静かに空を見上げた。


 まるで。


 騒ぐ子供を見るみたいな、

 少しだけ呆れた目で。


「不思議そうですわね」


 観測層、

  微震。


『だって』


『役割だろ』


『悪役だ』


『嫌われる存在だ』


『なら苦しめ』


『壊れろ』


『それが物語だ』


 レオノーラは、

 小さく息を吐いた。


「ええ」


「悪役令嬢ですわ」


 認める。


 逃げない。


 否定しない。


 だが。


 次の言葉が、

 観測構造そのものを揺らした。


「役を与えられても――」


 静寂。


 風が吹く。


 崩壊しかけた空の下。


 彼女は、

 まっすぐ観客席を睨み返した。


「魂まで渡した覚えはありませんわ」


 瞬間。


 観測層へ、

 巨大なノイズ。


『――ッ!?』


『理解不能』


『役割拒否?』


『キャラ逸脱』


『人格独立』


 悲鳴みたいな声。


 観測者たちは、

 初めて気付き始める。


 人間は。


 “設定”だけでは、

 支配できない。


 どんな役を押し付けても。


 どんな脚本を書いても。


 その内側には、

 本人だけの意思がある。


 ミレイユが、

 震える声で呟く。


「……役より、

 自分を選んでる」


 セシルは、

 乾いた笑みを浮かべた。


「そりゃそうだろ」


「人間ってのは、

 脚本より面倒なんだよ」


 空の観客席が、

 軋む。


 まるで。


 初めて、

 “キャラクター”ではない人間を見たみたいに。

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