シーン2「悪役受容」
歓声が、
王都を揺らしていた。
「断罪しろ!!」
「裁け!!」
「悪役を終わらせろ!!」
空の観客席も、
熱狂している。
無数の視線。
無数の期待。
誰もが、
“次の台詞”を待っていた。
処刑台中央。
レオノーラ・ヴァレンシュタインは、
静かに立っている。
逃げない。
叫ばない。
泣かない。
ただ。
まっすぐ前を見ていた。
断罪役の老貴族が、
震える声で叫ぶ。
「レオノーラ・ヴァレンシュタイン!!」
「貴様は、
傲慢、圧政、扇動、秩序破壊――」
言葉が続く。
だが。
途中で。
レオノーラが、
静かに口を開いた。
「ええ」
広場が、
一瞬で静まる。
風まで止まった。
彼女は、
優雅に微笑む。
「わたくしは、
悪役令嬢ですわ」
沈黙。
完全停止。
誰も、
理解できなかった。
否定しない。
抵抗しない。
泣いて許しを請わない。
観測者たちですら、
一瞬反応が遅れる。
『……は?』
『受け入れた?』
『違う、
そうじゃない』
『断罪イベントだろ?』
『ここは抵抗する場面では?』
空気が揺らぐ。
レオノーラは、
静かに続けた。
「傲慢でしょう」
「人を怒らせたこともありますわ」
「嫌われたこともあります」
「理解されなかったことも、
数え切れません」
処刑台へ、
風が吹く。
だが。
その姿は、
少しも惨めではなかった。
むしろ。
堂々としていた。
セシルが、
目を細める。
「……そう来たか」
彼は理解する。
レオノーラは、
“役割”そのものを否定していない。
否定すれば。
観測者たちの土俵へ乗る。
だから彼女は、
逆を選んだ。
受け入れる。
その上で。
“意味”だけを奪う。
レオノーラは、
空の巨大観客席を見上げた。
「ですが」
一拍。
「悪役であることと」
「誰かの脚本へ従うことは、
別問題ですわ」
観測層が、
大きく揺れる。
『逸脱』
『キャラ解釈不一致』
『待て』
『その方向は違う』
苛立ち。
困惑。
ノイズ。
観測者たちは、
初めて気づき始める。
レオノーラは、
“役”を拒否していない。
むしろ、
完璧に演じている。
なのに。
物語として制御できない。
彼女は、
ゆっくり両手を広げた。
まるで。
舞台そのものを支配する、
本物の悪役令嬢みたいに。
「悪役なら、
悪役らしく――」
微笑む。
美しく。
傲慢に。
そして。
「物語そのものを、
壊して差し上げますわ」




