シーン1「強制断罪」
王都中央広場。
そこはもう、
広場ではなかった。
劇場だった。
巨大な白い石段。
赤い絨毯。
天を突く処刑台。
そして。
それを取り囲む、
無数の観客。
いや。
“観客にさせられた人々”。
誰もが、
どこか虚ろな目をしている。
なのに。
興奮だけは、
異様に高まっていた。
ざわざわ。
ざわざわ。
期待。
熱狂。
処刑前の祝祭みたいな空気。
空では、
巨大観客席が明滅している。
観測者たちが、
この瞬間を“待っていた”と分かるほどに。
セシルが、
吐き捨てた。
「……強制感情誘導か」
術式盤には、
無数の波形。
王都全域へ、
観測感情が流し込まれている。
「怒り」
「断罪欲求」
「正義感」
「興奮」
全部。
“悪役令嬢断罪イベント”を、
盛り上げるための感情。
広場中央。
貴族議会まで、
強制的に舞台化されていた。
議員席。
黄金装飾。
巨大シャンデリア。
まるで、
最終話用の特別舞台。
議長席へ座る老貴族が、
震える声で叫ぶ。
「レオノーラ・ヴァレンシュタイン!!」
その声には、
本人の意思がほとんどない。
世界構造に、
喋らされている。
「貴様の罪を、
ここで裁く!!」
歓声。
拍手。
熱狂。
空の観客席まで、
揺れる。
『来た』
『断罪だ』
『ここ好き』
『悪役令嬢テンプレ最高』
『泣ける流れ』
最悪だった。
人々の怒号が、
広場を埋め尽くす。
「断罪しろ!!」
「悪役を裁け!!」
「世界を救え!!」
だが。
誰も、
本当にレオノーラを憎んでいるわけではない。
ただ。
“そういう空気”へ、
世界が固定されている。
それが、
何より恐ろしい。
ミレイユが、
青ざめる。
「みんな……」
「操られてる……」
違う。
セシルは、
苦い顔で首を振った。
「半分は自分の意思だ」
沈んだ声。
「人間、
こういう“分かりやすい正義”に酔うからな」
広場の熱狂は、
さらに増幅していく。
断罪。
処刑。
悪役排除。
観測者たちは、
“盛り上がる展開”を完璧に理解していた。
だから。
世界そのものが、
テンプレートへ収束していく。
処刑台上。
レオノーラだけが、
静かだった。
風が吹く。
赤いドレスの裾が揺れる。
空から、
まるで舞台照明みたいな光が降る。
観測者たちは、
期待している。
涙。
絶望。
自己犠牲。
感動的破滅。
“最高の悪役令嬢エンド”。
巨大魔法文字が、
空へ浮かび上がる。
『断罪開始』
その瞬間。
世界中から、
歓声が響いた。




