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悪役令嬢、予算書を叩きつける  作者: 南蛇井


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229/250

シーン1「強制断罪」

 王都中央広場。


 そこはもう、

 広場ではなかった。


 劇場だった。


 巨大な白い石段。


 赤い絨毯。


 天を突く処刑台。


 そして。


 それを取り囲む、

 無数の観客。


 いや。


 “観客にさせられた人々”。


 誰もが、

 どこか虚ろな目をしている。


 なのに。


 興奮だけは、

 異様に高まっていた。


 ざわざわ。


 ざわざわ。


 期待。


 熱狂。


 処刑前の祝祭みたいな空気。


 空では、

 巨大観客席が明滅している。


 観測者たちが、

 この瞬間を“待っていた”と分かるほどに。


 セシルが、

 吐き捨てた。


「……強制感情誘導か」


 術式盤には、

 無数の波形。


 王都全域へ、

 観測感情が流し込まれている。


「怒り」


「断罪欲求」


「正義感」


「興奮」


 全部。


 “悪役令嬢断罪イベント”を、

 盛り上げるための感情。


 広場中央。


 貴族議会まで、

 強制的に舞台化されていた。


 議員席。


 黄金装飾。


 巨大シャンデリア。


 まるで、

 最終話用の特別舞台。


 議長席へ座る老貴族が、

 震える声で叫ぶ。


「レオノーラ・ヴァレンシュタイン!!」


 その声には、

 本人の意思がほとんどない。


 世界構造に、

 喋らされている。


「貴様の罪を、

 ここで裁く!!」


 歓声。


 拍手。


 熱狂。


 空の観客席まで、

 揺れる。


『来た』


『断罪だ』


『ここ好き』


『悪役令嬢テンプレ最高』


『泣ける流れ』


 最悪だった。


 人々の怒号が、

 広場を埋め尽くす。


「断罪しろ!!」


「悪役を裁け!!」


「世界を救え!!」


 だが。


 誰も、

 本当にレオノーラを憎んでいるわけではない。


 ただ。


 “そういう空気”へ、

 世界が固定されている。


 それが、

 何より恐ろしい。


 ミレイユが、

 青ざめる。


「みんな……」


「操られてる……」


 違う。


 セシルは、

 苦い顔で首を振った。


「半分は自分の意思だ」


 沈んだ声。


「人間、

 こういう“分かりやすい正義”に酔うからな」


 広場の熱狂は、

 さらに増幅していく。


 断罪。


 処刑。


 悪役排除。


 観測者たちは、

 “盛り上がる展開”を完璧に理解していた。


 だから。


 世界そのものが、

 テンプレートへ収束していく。


 処刑台上。


 レオノーラだけが、

 静かだった。


 風が吹く。


 赤いドレスの裾が揺れる。


 空から、

 まるで舞台照明みたいな光が降る。


 観測者たちは、

 期待している。


 涙。


 絶望。


 自己犠牲。


 感動的破滅。


 “最高の悪役令嬢エンド”。


 巨大魔法文字が、

 空へ浮かび上がる。


『断罪開始』


 その瞬間。


 世界中から、

 歓声が響いた。

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