第28話 『悪役令嬢』Opening「世界最後の物語」
空が、
劇場へ変わっていた。
夜空いっぱいに広がる、
巨大観客席。
無数の視線。
無数の期待。
そして。
王都全域を包み込むように、
巨大な鐘の音が鳴り響く。
ゴォン――。
まるで、
開幕を告げる合図。
人々が立ち止まる。
空を見上げる。
その瞬間。
世界が、
“再構築”を始めた。
石畳が軋む。
建物の輪郭が歪む。
街並みそのものが、
舞台装置みたいに変形していく。
中央広場は、
巨大な劇場へ。
王城は、
断罪舞台へ。
赤い絨毯。
白い階段。
黄金の照明。
そして。
王都中心へ、
一つの席が用意される。
被告席。
そこへ。
無数の視線が、
一斉に向いた。
レオノーラ・ヴァレンシュタイン。
空間が、
彼女の名前を“主役”として認識する。
否。
違う。
“悪役”として。
ざわり、
と。
観測層全体が歓喜する。
『来た』
『最後の断罪劇』
『悪役令嬢ルートだ』
『最高の終幕』
『ここで泣ける』
『破滅エンド?』
『自己犠牲ある?』
レオノーラの周囲へ、
強制的に演出が集まり始める。
風。
光。
花弁。
悲劇的BGM。
全部が、
彼女を“最後の悪役”として飾り立てる。
セシルが、
舌打ちした。
「……クソが」
術式盤を睨む。
「世界そのものが、
役を固定し始めてる」
ベアトリクスの顔色も悪い。
「観測者側、
最終テンプレートを起動しています……」
「“悪役令嬢断罪劇”……!」
ミレイユが息を呑む。
理解してしまった。
観測者たちは、
最後に最も“盛り上がる物語”を選んだのだ。
つまり。
悪役令嬢。
断罪。
破滅。
贖罪。
涙。
そして、
感動的自己犠牲。
全部入りの、
“最高効率の悲劇”。
空の巨大魔法陣が、
レオノーラを中心に回転する。
まるで、
彼女以外の未来を許さないみたいに。
『君は悪役だ』
無数の声。
『だから美しい』
『だから感情が動く』
『だから皆が見ている』
『最後まで演じろ』
王都の空気が重くなる。
人々まで、
無意識に引き寄せられていく。
兵士。
貴族。
民衆。
全員が、
“断罪劇の観客”になり始める。
誰も望んでいないのに。
世界そのものが、
そういう空気へ変わっていく。
レオノーラは、
静かに空を見上げた。
巨大観客席。
無数の期待。
無数の欲望。
そして。
自分へ押し付けられる、
“悪役令嬢”という役割。
風が吹く。
赤い花弁が舞う。
まるで、
世界そのものが言っているみたいだった。
――さあ。
――最後の物語を始めよう、と。




