ラスト「最後の脚本
王都全域から音が消えていく。
人々が、
不安そうに空を見上げた。
観客席残骸。
崩壊しかけていたはずの巨大構造が、
再び明滅を始める。
無数の視線。
無数の感情。
そして。
明確な“怒気”。
セシルの顔色が変わった。
「……まずい」
術式盤を確認したベアトリクスも、
青ざめる。
「観測熱量、
急上昇……!」
「まさか……」
次の瞬間。
空が裂けた。
巨大な亀裂。
その奥には、
無数の観客席。
だが今までと違う。
歓声がない。
静かだった。
静かすぎるほどに。
それが逆に、
恐ろしい。
やがて。
夜空全体へ、
巨大な文字が浮かび上がる。
黒い光。
世界そのものへ刻み込まれる、
最後の脚本。
『ならば』
一文字ごとに、
空間が震える。
『最大の悲劇を』
王都が凍り付いた。
誰も、
呼吸できない。
まるで世界全体が、
“次の展開”を待たされている。
観測者たちは、
決断したのだ。
幸福が退屈なら。
平穏が物語にならないなら。
人類へ、
“最高の悲劇”を与えると。
その瞬間。
空の遥か上空で、
巨大な歯車みたいな魔法陣が回転を始めた。
赤。
黒。
金。
終末色の光。
世界各地で、
同時に異変が発生する。
海が逆流する。
山脈が軋む。
空間が悲鳴を上げる。
人々の頭へ、
直接“絶望”が流れ込み始める。
ベアトリクスが、
震える声を漏らした。
「……最終シナリオ」
「完全起動します……!」
ミレイユが、
思わずレオノーラの腕を掴む。
「これ……」
「何をする気なの……?」
答えは、
もう分かっていた。
観測者たちは、
最後まで“面白さ”を諦めない。
ならば。
世界そのものを、
最大級の悲劇へ変える。
自己犠牲。
滅亡。
涙。
別れ。
愛。
全部を乗せた、
“最高の終幕”。
空の向こうから、
無数の声が重なる。
『泣かせろ』
『絶望させろ』
『感動させろ』
『最高のラストを』
レオノーラは、
静かに空を睨み返した。
怒りではない。
嫌悪でもない。
もっと深い。
決意。
彼女は理解していた。
これはもう、
世界を守る戦いではない。
“人生を、
物語へ戻させないため”の戦いだと。
空の巨大文字が、
最後に脈動する。
『開演』




