シーン5 「レオノーラの違和感」
賑やかだった教室が、少しずつ静かになっていく。
原因は、
レオノーラ・ヴァレンシュタイン
だった。
彼女は黒板を見つめたまま、黙っている。
そこには大量の被害報告。
爆発
水害
校舎崩壊
橋崩落
魔力暴走
精神疲労
普通なら笑い話だ。
いや、実際かなり笑える。
だが。
レオノーラはふと気づいてしまった。
(……タイミングがおかしい)
彼女はゆっくり白墨を置く。
そして机へ向かい、紙を広げた。
さらさらと書き始める。
発生日。
発生場所。
関係人物。
感情変動。
魔力波形。
被害規模。
その横で、
クラリス・エヴァレット
が困惑した顔をする。
「レオノーラ様?」
「少し静かに」
声が真剣だった。
教室が自然と静まる。
レオノーラは資料を並べながら考える。
二人きりになる瞬間に爆発。
告白直前に雨。
喧嘩直後に橋崩落。
感情が高まるほど、事件が起きる。
しかも。
絶妙に“盛り上がる方向”へ。
偶然にしては、出来すぎていた。
レオノーラは小さく呟く。
「……まるで」
その時だった。
「何してる?」
突然、声。
教室全員がびくっとした。
いつの間にか窓際に、
セシル・アークライト
が立っていた。
怖い。
「うわぁっ!?」
エマが悲鳴を上げる。
「いつからいましたの!?」
「さっきから」
「怖すぎますわ!」
本人はまったく気にしていない。
セシルは面白そうに教室を見回した。
「へぇ。“恋愛イベント被害対策会議”」
看板を読む。
「字面が終わってるな」
「実態も終わっておりますわ」
レオノーラは即答した。
セシルはくつくつ笑う。
そして彼女の紙を見る。
びっしり書き込まれた分析表。
「……何だこれ」
「事件分析ですわ」
「恋愛イベントを?」
「ええ」
レオノーラは真剣だった。
彼女は黒板を指さす。
「見てくださいまし」
全員の視線が集まる。
「被害発生のタイミングが、あまりにも正確すぎますの」
一枚ずつ紙を並べる。
「この爆発は、二人が初めて心を通わせた瞬間」
「この豪雨は、告白直前」
「橋崩落は、仲直りの直後」
静かに。
冷静に。
分析を積み重ねる。
「すべて、感情が最高潮になる瞬間に発生している」
教室の空気が変わる。
さっきまでのコメディ空間ではなくなる。
誰も笑わない。
レオノーラはゆっくり顔を上げた。
その金色の瞳が、妙に冷えて見えた。
「まるで世界そのものが」
一拍。
「恋愛イベントを成立させようとしているみたいですの」
沈黙。
教室が静まり返る。
風だけが窓を揺らした。
そして。
セシル・アークライト
だけが、静かに笑った。
まるで。
その可能性を、最初から知っていたみたいに。




