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悪役令嬢、予算書を叩きつける  作者: 南蛇井


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シーン4 「被害報告会」

空き教室の黒板には、大きくこう書かれていた。


『恋愛イベント被害対策会議』


 その下。


 レオノーラ・ヴァレンシュタイン

 が白墨を手に立っている。


 完全に災害対策本部だった。


「では、被害報告をお願いしますわ」


 真面目な声。


 すると最初に手を挙げたのは、

 トーマ

 だった。


 老用務員は深いため息をつく。


「薔薇の花弁で排水路が詰まりましてな」


 レオノーラが黒板へ書き込む。


・排水路閉塞


「三日臭かったです」


 教室が静まり返る。


 嫌なリアルさだった。


「中庭一帯が発酵臭で大変でしたわい」


「なぜ誰も止めなかったんですの……?」


「“ロマンチックだから”と」


 終わっている。


 レオノーラはそっとこめかみを押さえた。


 次に、

 バルド

 が口を開く。


 死んだ目のまま。


「決闘イベントで校舎三回吹き飛びました」


 レオノーラの白墨が止まった。


「……三回?」


「今年だけで」


 多い。


 異常に多い。


 バルドは淡々と続ける。


「一回目は嫉妬した騎士科」


 黒板へ。


・校舎爆破①


「二回目はヒロイン取り合い」


・校舎爆破②


「三回目は“熱い友情が芽生えた”」


 レオノーラの手が止まる。


「友情で校舎が?」


「吹き飛びました」


 意味がわからない。


 しかもバルドが完全に慣れているのが怖かった。


「最近は瓦礫見ただけで修復予算わかります」


 職人として成長してしまっていた。


 続いて、

 ルイス

 が胃を押さえながら手を挙げる。


「最近、王都の薔薇価格が乱高下してまして……」


 声が弱い。


「原因は?」


「攻略対象の皆さんです……」


 即答だった。


「“今日中に青薔薇五千本”とか言われましても無理なんです……」


 無茶である。


「しかも急にキャンセルされるんです……」


「なぜ?」


「“雨の方がエモい”らしくて……」


 レオノーラは静かに天を仰いだ。


 花屋が可哀想だった。


 その時、

 エマ・ローレンス

 が楽しそうに新聞を広げる。


「じゃあ次、最近の記事いきますね!」


 嫌な予感しかしない。


 エマは朗々と読み上げた。


『愛の告白で橋崩落!』


 レオノーラが顔を上げる。


「なぜ橋が?」


「盛り上がったので」


「意味がわかりませんわ」


「感情が高ぶって魔力共鳴を起こしたそうです!」


 楽しそうに言うな。


「ちなみに恋は成就しました」


「橋は?」


「崩落しました」


 橋だけ敗北していた。


 レオノーラは無言で黒板へ書き足す。


・橋崩落


 そして会議は続く。


「湖が凍りました」


・水害


「観覧車が空へ飛びました」


・輸送事故


「告白失敗で雷が落ちました」


・魔力暴走


「徹夜続きで修復班が倒れました」


・精神疲労


 黒板がどんどん埋まっていく。


 爆発。


 水害。


 魔力暴走。


 建築損壊。


 輸送事故。


 精神疲労。


 完全に災害報告だった。


 しかも原因欄には、全部こう書かれている。


『恋愛イベント』


 レオノーラは静かに黒板を見つめた。


 そしてぽつりと呟く。


「……この世界の恋愛、国家予算を食い潰してません?」

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