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悪役令嬢、予算書を叩きつける  作者: 南蛇井


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シーン3 「被害者の会」

 レオノーラ・ヴァレンシュタイン

 は悟った。


 これはもう、

 一件の事故ではない。


 個人の暴走でもない。


 構造的問題である。


 恋愛イベントが発生する。


 施設が壊れる。


 誰かが徹夜する。


 予算が死ぬ。


 そして誰も反省しない。


 永久機関だった。


 しかも最悪の方向に完成されている。


 レオノーラは静かに決意する。


(……組織化が必要ですわね)


 発想が完全に管理職だった。


   ◇


 その日の放課後。


 学園旧校舎の一室に、一枚の看板が掲げられた。


 達筆だった。


『第一回 恋愛イベント被害対策会議』


 字が強い。


 圧がある。


 しかも「第一回」と書いてある時点で継続開催前提だった。


 空き教室を勝手に使用しているが、もはや誰も止めない。


 レオノーラは教壇前へ立ち、静かに出席者を見渡した。


 集まった顔ぶれは、妙に疲れていた。


 まず、

 クラリス・エヴァレット

 。


 書類担当。


 机に座った瞬間から帳簿を開いている。


 職業病だった。


 その隣には、

 トーマ

 。


 掃除担当。


 腰に雑巾。


 目が完全に“修羅場慣れした老人”のそれである。


「よろしくお願いしますわ、トーマ」


「こちらこそですな、お嬢様」


 穏やか。


 だがその手は、花弁掃除で鍛えられた職人の手だった。


 さらに窓際では、

 エマ・ローレンス

 がノート片手にニヤニヤしている。


 新聞部所属。


 ゴシップ大好き。


 面白そうな匂いを嗅ぎつけて参加したタイプだ。


「いやー、“恋愛イベント被害者の会”とか最高ですね!」


「正式名称は“被害対策会議”ですわ」


「どっちでも記事映えします!」


 信用ならない。


 一方、後方席には大男が座っていた。


 バルド

 。


 校舎修理のプロ。


 筋骨隆々。


 しかし目が死んでいる。


 完全に過労。


 彼は静かに言った。


「今年入ってから校舎三回建て直した」


「やはり三回なのですね」


「もう驚かなくなった」


 職人の心が壊れていた。


 そして最後。


 小柄な青年が、おそるおそる手を挙げる。


 ルイス

 。


 王都花屋組合所属。


 最近の薔薇価格高騰で胃をやられている。


「ど、どうも……」


 顔色が悪い。


「最近ずっと胃薬飲んでます……」


「お気の毒に」


「攻略対象の皆さん、急に大量発注するんです……」


 切実だった。


「しかも“今すぐ”って……」


 無茶振りである。


 教室を見回す。


 帳簿。


 工具。


 掃除道具。


 胃薬。


 疲労。


 悲哀。


 異様だった。


 普通、乙女ゲームの主要メンバー会議はもっと華やかである。


 なのにここは。


 災害対策本部みたいになっていた。


 レオノーラは静かに頷く。


「では始めますわ」


 全員の目が彼女へ向く。


「本日の議題は――」


 一拍。


「恋愛イベントによる慢性的被害についてです」


 空気が妙に真剣だった。

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