ラストシーン 「止まった拍手」
夜。
王都。
静かだった。
異様なほどに。
復旧途中の街路。
半壊した建物。
仮設結界の淡い光。
それらすべてが、
まるで舞台模型みたいに、
静止して見える。
そして。
誰もが気づいていた。
――音がない。
今まで、
常にあったもの。
拍手。
歓声。
期待。
あの、
見えない“観客たち”の反応。
それが、
完全に消えていた。
ぱちぱちという乾いた音も。
どこか遠くから響く笑い声も。
空気に混ざっていた、
熱狂の気配も。
全部。
消失している。
だからこそ、
怖かった。
王都の人々は、
窓を閉め、
灯りを消し、
息を潜めている。
まるで。
舞台袖で、
次の台本を待つ役者みたいに。
広場では、
誰も喋らない。
衛兵たちですら、
空を見上げることを避けていた。
巨大魔法陣。
夜空を覆う、
あの巨大な光輪。
それだけが、
静かに脈動している。
レオノーラ・ヴァレンシュタインは、
中央観測塔の屋上で、
空を見上げていた。
隣には、
セシル・アークライト。
ベアトリクスは、
観測盤へ齧りつくように解析を続けている。
だが。
誰も喋らない。
あまりにも、
静かすぎた。
その沈黙を破ったのは、
セシルだった。
「……観客側、
止まったな」
乾いた声。
だが、
直後。
彼は、
ゆっくり首を横へ振る。
「いや……違う」
観測盤へ流れる、
異常な数値。
上昇し続ける期待値。
収束していく感情波。
セシルの顔色が、
さらに悪くなる。
「待ってる」
レオノーラ、
目を細める。
「……何をですの?」
セシルは、
空を見上げたまま答えた。
「次の展開を」
その瞬間。
巨大魔法陣が、
ゆっくり発光した。
王都全域が、
青白い光へ染まる。
人々が、
悲鳴を呑み込む。
空。
巨大な円環構造。
その中心部へ、
文字が浮かび始める。
最初は、
光の乱れ。
だが、
次第に。
はっきりと。
夜空全体へ。
巨大魔法文字。
『盛り上がりが足りない』
沈黙。
誰も、
声を出せない。
子供が、
小さく泣く。
どこかで、
誰かが膝をつく音。
レオノーラは、
静かに空を睨んでいた。
理解してしまう。
観測者たちは、
もう隠そうとしていない。
この世界を。
娯楽として見ていることを。
そして。
“もっと刺激的な展開”を、
求め始めていることを。
夜風は吹かない。
空も動かない。
巨大魔法陣だけが、
不気味に脈動している。
まるで。
次の悲劇を、
期待しているみたいに。




