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悪役令嬢、予算書を叩きつける  作者: 南蛇井


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第十八話『悪役令嬢の告発』Opening 「暴露決意」

 夜明け前。


 地下観測室。


     ◇


 王都は、

 まだ眠っていない。


     ◇


 いや。


 正確には。


 眠れなくなっていた。


     ◇


 天井の観測窓。


 その向こう。


 巨大魔法陣が、

 依然として空を覆っている。


     ◇


 幾重もの光輪。


 脈動。


 ゆっくり回転する、

 円形劇場構造。


     ◇


 そして。


 未だ、

 消えない文字。


     ◇


『続きが見たい』


     ◇


 夜空へ焼き付いた、

 観客の欲望。


     ◇


 あれ以来。


 王都は、

 完全に変わってしまった。


     ◇


 街路。


 市場。


 学園。


 人々は、

 空を見なくなった。


     ◇


 誰もが、

 無意識に俯いて歩く。


     ◇


 若者たちは、

 “演出”を恐れている。


 偶然の接触。


 夕焼け。


 花弁。


 視線。


     ◇


 恋愛感情そのものへ、

 嫌悪感を抱く者まで現れ始めた。


     ◇


「好きになると、

 また何か起きる」


     ◇


 そんな噂が、

 街へ広がっている。


     ◇


 さらに。


 精神異常。


     ◇


 “誰かに見られている”


 という妄想。


 自我不安。


 感情否定。


 自殺未遂。


 宗教暴走。


     ◇


 王都全体が、

 ゆっくり壊れ始めていた。


     ◇


 地下観測室。


 重苦しい沈黙。


     ◇


 巨大術式盤だけが、

 淡く光っている。


     ◇


 王家側代表の官僚が、

 疲れ切った声で言った。


     ◇


「……情報統制を提案します」


     ◇


 空気が、

 さらに重くなる。


     ◇


「真実を公表すれば、

 文明崩壊です」


     ◇


 当然だった。


     ◇


 世界が、

 観測劇場。


 人生が、

 演出。


 感情が、

 消費資源。


     ◇


 そんな事実を、

 人間が耐えられるわけがない。


     ◇


 沈黙。


     ◇


 誰も、

 反論できない。


     ◇


 だが。


     ◇


「もう隠せませんわ」


     ◇


 静かな声。


     ◇


 レオノーラ・ヴァレンシュタイン

 だった。


     ◇


 彼女は、

 観測盤を見つめたまま続ける。


     ◇


「隠したままなら、

 人間は永遠に“舞台装置”ですもの」


     ◇


 その言葉に。


 観測室が静まり返る。


     ◇


 誰も、

 すぐには息をできなかった。


     ◇


 レオノーラは、

 ゆっくり振り返る。


     ◇


 その目に、

 迷いはない。


     ◇


 恐怖もある。


 理解している。


 これが、

 文明規模の爆弾だと。


     ◇


 それでも。


 彼女は、

 決めていた。


     ◇


 世界へ。


 全部、

 公開する。


     ◇


 沈黙の中。


 セシル・アークライト

 が、

 顔色の悪いまま呟いた。


     ◇


「……世界が壊れるぞ」


     ◇


 低い声。


 脅しではない。


 予測。


     ◇


 だが。


 レオノーラは、

 一切揺るがなかった。


     ◇


「壊すべき世界なら」


     ◇


 一拍。


     ◇


「一度壊れた方が健全ですわ」


     ◇


 その瞬間。


 巨大魔法陣が、

 低く脈動した。


     ◇


 まるで。


 世界そのものが、

 その決意を聞いていたみたいに。


     ◇


 数時間後。


 王都中央広場。


     ◇


 全国同時中継術式の、

 起動準備が始まる。


     ◇


 世界最大の、

 “告発劇”が。


 幕を開けようとしていた。

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