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悪役令嬢、予算書を叩きつける  作者: 南蛇井


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シーン7 「セシルだけ気づく」

重苦しい沈黙が、生徒会室を包んでいた。


 誰も喋らない。


 喋れない。


 恋愛イベントという華やかな舞台を、

 レオノーラ・ヴァレンシュタイン

 が真正面から「損害」と断定してしまったからだ。


 しかも反論できない。


 壁は実際に壊れているし、予算も消えている。


 現実は強い。


 その静寂の中。


 セシル・アークライト

 だけが、静かにレオノーラを見ていた。


 興味深そうに。


 本当に興味深そうに。


 彼は頬杖をつきながら、細い目をわずかに細める。


 他の連中とは反応が違った。


 アルベルトは価値観を否定されて混乱している。


 ガイウスは罪悪感で気まずそう。


 ミレイユは「自分のせいだ」と落ち込みかけている。


 だがセシルだけは違う。


 彼は考えていた。


(こいつ、見えているものが違うな)


 普通の人間はイベントを見る。


 恋愛。


 演出。


 感動。


 盛り上がり。


 だがレオノーラだけは、その裏側を見ている。


 誰が準備し。


 誰が金を出し。


 誰が後始末するのか。


 つまり彼女は、

 “イベント”ではなく、

 “構造”を見ていた。


 それはこの世界では、異常な視点だった。


 セシルはゆっくりと笑う。


 面白い玩具を見つけた子供みたいな顔だった。


「なるほどな」


 ぽつりと呟く。


「面白いな、この女」


 その声は小さかった。


 だがレオノーラには聞こえた。


 彼女はじろりとセシルを見る。


「失礼ですわね」


「褒めてる」


「なお悪いですわ」


 セシルは肩を揺らして笑った。


 この女は、恋愛イベントに酔わない。


 空気に流されない。


 しかも数字で殴ってくる。


 こんな人間、この世界では珍しいどころではない。


 下手をすれば、

 世界観そのものへの異物だった。


 だからこそ面白い。


 セシルは確信する。


 この悪役令嬢は、

 ただの“ゲームの悪役”では終わらない。


 たぶん。


 とんでもなく面倒な存在になる。


 そしてその予感は、妙に心地よかった。


 一方、

 レオノーラ・ヴァレンシュタイン

 は内心で警戒していた。


(この男、絶対に性格が悪いですわね)


 正解だった。

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