第52話 緊急事態
「エリー!すぐに治療を!!」
イダーテお兄さんの声に目を開けると、壁に寄りかかっているラピスがいた。
ざっくり、お腹から結構な量の血が出ている。
「エリー、落ち着いて、聞いて」
「それより今は治療!!」
すぐに目立った傷口を塞いで出血を止めることはできたけど、繊細な治療は私じゃ難しい。
このままでは跡が残ってしまう。
顔色も悪いままだし、すぐに教会に行く必要があるだろう。
「子供が連れ去られそうになってて、私が認識阻害でこっそり倒そうとしたんだけど、やられてしまって。それで、代わりに二人が、ゼーダに連れてかれたわ。……ついて行った、が正しいかな」
周りには折れたラピスのほうきと子供用の木剣が2つ、落ちていた。
ごめんなさい、とラピスが言った。
「謝るのは私の方だよ!!離れないでって止められたのに、勝手に私がそのまま……」
「エリーはシータと王国を救ってくれたでしょ?」
「じゃあお互い様!私じゃ不十分だからラピスは今すぐ教会に行って治療して!!」
エリーはラピスに強化魔法をかけ、その間にラピスは通信機をシータに渡した。
「あ、猫のほうがいいかし……りゃ!?」
「そのままでいいよ、じゃあ行くね」
「「あっちょっと」」
イダーテがラピスをそのままスッと抱えると、一瞬で目の前から消えた。
女子二人の声が重なったがもういない。
「どうした?」
「……なんでもない、たぶん大丈夫」
「急ごう」
取り出したのはディナとヴィラに渡していた腕輪の四角い受信機。
二つの赤い光は北を指していた。
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ここは傭兵団の拠点の一つだろうか。
ヴィラとディナの二人は手足と体をロープでぐるぐる巻きにされて部屋に閉じ込められていた。
「大丈夫かな、ラピスお姉ちゃん」
「イダーテお兄さんがいたから、たぶん大丈夫だと思いたいけど……」
連れ去られる前。
ドラゴンが退治されてもラピスお姉さんは僕たちに結界を張っていた。
「どうなってるかエリーたちの元に行きましょうか」
その瞬間、子供の悲鳴が聞こえてラピスお姉ちゃんは走り出した。
ディナと顔を見合わせて頷いて追いかけて行くと、ラピスお姉ちゃんは傭兵に向かってホウキを叩きつけようとしていた。
そうだ、認識阻害で見えなくしているから。
でも傭兵の人は、ホウキと一緒にラピスお姉ちゃんを切った。
「気配でバレバレなんだよ!!」
二人は思わず飛び出した。
「ラピスお姉ちゃん!」
「ラピス先輩!」
傭兵はこっちを見ると子供を離し、こっちが本命だったかとこっちに向かってくる。
「この子たちに近づかないで!!」
ラピスは立ち上がって、お腹を抑えながらも片手を伸ばす。
「へぇ、青い目。こりゃあとんでもないのもいたもんだ」
青い目はアスタリア王家の証。
ラピスという名はそこまで広まってはいないかもしれないが、高貴な生まれの出だという事はすぐにばれてしまう。
「いいのか?知ってるんだぜ?魔術ってもんは大怪我をしている時に使うと傷口から流れる魔力が、さらに傷口が広げるってなぁ」
魔術は全身の魔力回路を使って行う。血液と隣り合わせだ。
手足の多少の傷程度だったら大丈夫だが、腹部にこの大怪我。
無事では済まないだろう。
「ええ、だからっ暴発させてでも「「やめて」」
ディナがラピスの服を掴んで止める。
「私たちが行けばいいんでしょう?」
「だからこれ以上ラピスお姉ちゃんには手を出さないで」
わざとらしく、からんからんと木剣を地面に落とす。
「なんで」
ラピスお姉ちゃんは行かないでと言わんばかりに顔を歪ませている。
「僕たちなら大丈夫だから」
「ね?」
と、二人は笑って傭兵の元に駆けていく。
「いいだろう、ついて来い」
傭兵がそう言ってついて行くと、近くに仲間がいたらしい。
あそこで戦わなくてよかった。
僕たちはロープで簡単に手首を縛られ囚人のように連れて行かれた。
どん、と殴られるように突き飛ばして部屋に入れられたが、正直痛くも痒くもなかった。
「よわ」
というディナの声が聞こえてしーっという顔をしてやめさせるほうが大変だった。
そして今に至る。
「ラピス先輩、とても酷い傷を負っていたのに」
思い出して二人は暗い顔をする。
「僕がすぐに傭兵の人に体当たりすればよかったかな……」
「それはあんたがトラウマになるでしょうが。私も見たくないわ」
きっとR15+くらいになって怒られてしまう。
ロープはたぶん簡単に千切れるけど、ここで逃げても追いかけっこになってしまうので大人しくエリーお姉ちゃんたちが近くに来るまで待とう、ということになった。
ただこうしてぼうとしていると、血溜まりを何度も思い出しそうになる。
ディナがいてよかった。
「大丈夫?」
顔色が悪く見えたのか、ディナが声をかけてきた。
「ん、大丈夫。ロープだから」
少し、昔の事も思い出しかけただけ。
居場所を知らせる腕輪はヴィラだけロープに巻かれる前に外して転がした。
二人とも同じものをつけていたらバレてしまう可能性があるからだ。
ヴィラは間違えて反発してロープを弾き飛ばさないように一切身体を動かさないでいた。
そのせいでロープを巻く傭兵にとても気味が悪そうにされていたけれど。
部屋の外が何やら騒がしくなった。
拘束具をまだつけていないだとかなんだ聞こえてくる。
つけられる前に逃げた方がいいかもしれない。
「ねえ、ヴィラって壁突き破ったことある?」
「あるよ、何度も。得意分野だよ。なんなら吹っ飛ばしちゃった事もある」
「私もあるのよね。めっちゃ怒られた」
「ディナのはわざとでしょ?それは怒られるよ」
「でもよかった、それなら大丈夫だね」
「だね」
二人はニヤリと壁を見た。




