第51話 王都を守る聖女
「あらあらぁ〜エルダの時と同じみたいで面白いわねぇちょっと大きいような気がするけど、リベンジマッチでもしにきたのかしら。いいえ、確かあれは村で美味しくいただいたのよね」
ひょこり、と建物からエミアが顔を出す。
「エミア様ー!危険ですぅー!すぐに降りて下さーい!!この状況で塔に登るなどー!!」
王都で一番高い塔。
この塔には大きな時計と時刻を知らせる大きな鐘があった。
ディナよりも小さい少女がぜえはあと服の裾を踏みそうになりながらも階段を登り、息切れをしながらも叫ぶ。
「あらついて来たの?あなた見習いの子?」
「ゼェ、ゼェ、見習いのアリルです、次世代の、聖女の付き人になる予定でして、修行の身で、ゼェ、ゼェ、ウッ」
アリルは大蛇とドラゴンの出現によりバタバタとしている教会の中で平然と抜け出すエミアをみかけ、心配になって追いかけて来たのだ。
「そうなの?じゃあ今からお勉強ね。結界を張るから見てるといいわ」
「けっかい?あのドラゴンのからの攻撃を防ぐというのですか?」
あの大きなドラゴンから、一人で王都を守るというのだろうか。
エミア様ならそれを成し遂げてしまえるというのか。
「いいえ?防ぐのは村人の威圧」
「むらびと?いあつ?」
その言葉の意味がよくわからず頭を抱える。
そんなアリルをよそに、エミアは空をながめていた。
そろそろ来るわ、という言葉と同時に大きな黒い影がまるで日食でも起きたかのように地上を覆う。
目標地点とは少し離れているが、あんなものが落ちてきたら王都は終わりだ。
「ひいいい!!?」
腰を抜かしたアリルとは対照的にエミア様は落ち着いて祈るように手を組むと、周り一帯が光輝き始める。
その光は王都一帯に広がる。
アリルはその美しい光景に目を奪われた。
「神よ、都を、民を、あらゆる衝動からお守りください」
白い服の裾がはためき、光り輝く姿はまさに聖女様。
「……例えそれが村人の力だったとしても」
ボソリと何かが付け足されたがアリルの耳には届かなかった。
ドラゴンが地上にぶつかる。
その瞬間、東の方からこの距離でも聞こえるくらいの轟音がした。
そして光が静かに消えるとエミアが手を叩いて言う。
「はい、終わり」
「!???」
それをアリルはこの世の終わりの意味だと勘違いする。
「ええええええエミア様、どういう事ですか!?防げなかったんですか?このまま私たちドラゴンに虐殺されてしまうんですか!?所詮は弱肉強食ですか!?」
「ん?ドラゴンが終わったって意味よ?あっちでも結界をちゃんと張っていたみたい。平和平和。ほら、終わったから帰りましょう」
エミアはしがみつくアリルに手を差し伸べた。
「ちょっとよくわからないのですが、詳しい説明はしてくださらないのですか……」
「んーそうねえ、見られちゃったものねえ。秘密にしてくれる?」
「はい!今日見たことは全て絶対に。なんなら契約魔法をかけていただいても構いません!!」
契約魔法。
契約を破ると針千本飲まされたり、火炙りになったりと中々物騒な魔法だ。
「あはは、そんなことしなくても自動的に首は飛ぶから大丈夫よぉ〜」
そんなことしなくても大丈夫、ではなくそんなことをしなくても自動的に首が飛ぶ、という話にえ?とアリルの表情は青くなる。
心の準備ができていないアリルはちょっと待って下さい、と言ったがエミアはそんなことはお構い無しに話し始める。
「さっきドラゴンを一発で退治したのはただの村人なの。でも神様のお告げでは勇者が魔王を討伐しなきゃでしょ?」
エミアがだから、とドラゴンを指す。
「あのドラゴンは王都襲撃の気配を察知して戻ってきた勇者が討伐した」
「い、隠蔽するって事ですか」
「そ、村人が魔王を倒せちゃうなんて、大混乱になっちゃうでしょう?」
にこり、とエミアは笑う。
優しそうな笑顔なのにどこか恐ろしく感じる。
「わかりました、絶対に墓場まで持っていきます。…………それにしても、と、とてもお強い村人さんなんですね?」
「そうなのよ〜未来の息子になるかもしれない子なの!」
うふふ、とあたたかな笑顔になってアリルはホッとする。
「エミア様には娘さんがお一人いらっしゃると伺ってますが、もしかしてその娘さんと?」
「そうなると思うのだけど全然進展がなくって。困っちゃうわぁ〜」
その村人さんがエミア様の娘さんとの交流があるのなら、いずれ会う事もあるかもしれない。
あれを倒せてしまう人だと思うとちょっと怖い。
「あっそうそう、この間娘が来てね〜勇者の事をボロクソ言う会話を録音したから、勇者が教会に来たら教えてね〜」
「はい?」
なんかもう一つ聞き捨てならない話が飛び出た気がする。
こっちの方がアウトな気がする。
「勇者が学院時代から何度も娘にしつこく言い寄ってくるのよ。夫にも娘さんをくださいって言って暴言を吐いたらしくて。こっちにも来たらコレを聞かせてあげようと思って」
エミア様は録音する為の魔導具を取り出した。
全然笑っていないし、目が真っ黒になっている。
まさに深淵。
「はい、勇者様がいらっしゃいましたら、エミア様に真っ先にお伝えいたします」
この日、アリルはエミア様を追いかけたことを後悔した。
そして勇者様、お願いですから私がいる時に教会に来ないでください。と祈りを捧げた。




