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サイハテの村人たちは勇者がいなくても平気なようです 〜ただしご近所は魔王城〜  作者: 青咲花星


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第49話 東に黒の流星

「何あれ」


真っ黒で大きな影。

エリーたちは立ち止まって空をみる。


「ドラゴンだわ、何故王都に……」


ラピスは占いを思い出す。


東に黒の流星


「まさかあれが、落ちてくるというの?」


旋回していたドラゴンがギョロリ、と黄色い目がシータの行った先を見ていた。

ぞわり、と冷や汗が噴き出してくる。


エリーが走り出す。


「エリー!!待って、離れたら「結界張らないと、シータが周りに被害出しちゃう!二人をお願い!!」


被害を出すのはドラゴンでは?

とつい、頭によぎる。

気がつけばエリーは走り去って行ってしまった。


「二人とも、私の近くに来て」


ひとまず、これから何かしらの衝撃が来るだろう。

ラピスは先に結界を張った。


『ラピス!何あれ!!空に黒いのあるんだけどー!!』


その直後、キーンとイダーテの声がした。

音量調節も視野に入れなければ。


「イダーテ!ちょうどよかった!今すぐ教会に行って知らせてほしいの!ドラゴンが来てるの!!おそらく東の方に降りてくるわ!!」


『なるほど了解ー!今日はご馳走だね!!』


「え?」


『ずっと食べてみたかったんだ!ドラゴン!!』


返ってきたのはとても嬉しそうな声。


『あ、そうだ。大蛇については何もしなくて大丈夫だってさー。ああ大掃除の季節か、忘れてたって言ってたよ。教会行ったらすぐ戻るねー』


「ドラゴンよ?王都の危機だというのに、どういう事?大掃除?」


「おおそうじはよくわからないけど、昔エルダさんがドラゴンを狩って来たことがあるんだってさ。村のおじさんたち、すっごく美味しかったって言ってた」


「あの大きさならねぇ、ワイバーン6頭分くらいだよね?1頭だけだし平気じゃない?」


「ああそっか、王都って建物いっぱいあるから壊れちゃうのかな?でもエリーお姉ちゃんが行ったから大丈夫だと思うよ」


不安そうな顔は全く微塵もなく、寧ろわくわくしているサイハテの子供たち。

ラピスはサイハテを理解していたようでしていなかったことに、思わず真顔になる。


(でも、占いの通りなら"2つに分かれ、北に。一つ陰り、一つ黒く染まる試練あり。"がまだ残っているわ)


ラピスはふう、と溜め息を吐き無事に終わるのを願った。


________


エリーは全速力で走っていた。

強化魔法もいまいちで、走っているのに全然前に進んでいないような気がして、強化魔法の難しさと己の運動不足を呪った。


(お願い、間に合って!)


卒業式、シータが自分の為に怒ってくれたあの日。

観衆は皆バタバタと倒れていた。

あの光景がよぎる。


私だけが学院で酷い目にあったと思っているかもしれないけれど、それはシータも同じだ。


学院でいつも標的になって、強すぎるからって追い出されて。

卒業式で能力を使っちゃって、結局腫れ物扱いで。

学院から村に帰る時、シータはどうだったか聞くと「オレはやっぱり友達なんてできなかったなぁ」って本人は気づいてないようだけど寂しそうな顔をしていた。


シータからの威圧を受けた事のある人々の目を思い出す。


ドラゴンを倒すだけではダメだ。

絶対に周囲に被害を出させてはいけない。

これ以上、彼に対して畏怖を感じさせてはいけない。


シータの強さは努力で手に入れたものなのに。

シータは勇者でも魔王でもなんでもない、優しいただの村人なのに。


絶対に、私の大切な幼馴染を傷つけさせない。


服から飛び出したペンダントを握ると、その先に大蛇とシータを見つけた。


「シータ!」

「エリー!ドラゴンは大蛇様を狙っている!結界を頼む!!」


エリーは大蛇の前に駆け寄り、シータとドラゴンがやってくるであろう道筋の周りにも結界を何重にもして張った。


ドラゴンに気づいた魔物たちは既に逃げ出していた。

残っているのは騎士団と冒険者たち。

近くに大蛇、空にはドラゴン。勇者はいない。

彼らにとって勝ち目のない状況に戦意を失っている。


多少の風圧は来るだろう。

物が落ちて下敷きになったら危ない。

シータは叫んだ。


「全員、建物から離れて!できるだけ頭を低くして伏せろ!!」


こんなに沢山の騎士や冒険者がいるのに、ただの村人が一番恐れを成さず堂々としている。

エリーはこんな時なのについ笑いそうになってしまった。


ドラゴンが一直線にこちらに向かって来る。

シータは大蛇とドラゴンの間に立ちはだかるように歩いて進み、木剣を構えた。


「馬鹿な、一人で相手をしようとしているのか!?」


誰かが言った。

この世の終わりだ、とかもうすぐ死ぬんだとかそんな言葉が聞こえる。

待て、あれは木剣では?と言う声がした。


ああ、気づいちゃったか。


シータは息を吸って吐いて、一番威圧していた時のことを思い出す。

誰かがエリーを貶していた時。

勇者がエリーに付き纏っていることを知った時。

卒業式で、エリーが泣いていた時。


どれも結局大事な時にその場にいなくて、何もできなかった。


全てのもやもやとイラつきを一点に、木剣に集中させる。

ドラゴンは既に近くまで来ていた。


シータは走り出し、飛び上がる。


そして、威圧と共にドラゴンを地面に思いっきり叩きつけた。

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