第48話 大蛇よりもおそろしいもの
「先に行って止めてくる」
そう言ってシータは腰に下げた昨日の赤黒い剣を確認して走り出す。
「わ、速い」
ヴィラが思わず口にこぼした。
そう、イダーテが能力で異常に速いだけで彼は常人と比べて足が速い。
エルダさんにしごか……努力のおかげだろう。
シータの姿はあっという間に見えなくなった。
「私たちも行こうか」
エリーたちは走って後を追いかける。
「あれ?ラピスお姉ちゃんは?」
ふとラピスが居ない事に気がついた。
「私は上にいるわ」
見上げるとホウキに乗ったラピスがいた。
服装も魔術師だから完全に物語にでてくる魔女のようだ。
「すごい!」
目をキラキラと輝かせるディナ。
「私が開発した移動用ホウキなの。一人乗りだから乗せてあげられないけれど」
「凄いけど目立たないの?」
「認識阻害をかけてるから見えないわ」
便利〜とディナはまじまじと見つめる。
「ディナ、前見ないと危ないよ」
相変わらず注目されないようにしているんだなぁ、とラピスが注目された時の怯えようを思い出す。
そう考えるとラピスと仲良くなれたのは奇跡みたいなものかもしれない。
_______
「どういうことだ!!」
ゼーダ傭兵団のリーダーが叫んだ。
本来は東の森で魔物が興奮する薬剤をばら撒き、騎士団や冒険者が離れている間にサイハテの子供達を誘拐する予定だった。
それが宿には帰って来なかったのだ。
それどころか宿の周りに罠があり、謎の巨体に何人か捕まってしまった。
しかも東の森の魔物達があり得ない速さで真っ直ぐに王都を襲いに来ている。
「くそ!予定変更だ!!傭兵団として助けるフリなりなんなりして、サイハテの子供を見つけてなんとしてでも捕まえろ!!」
仲間は各地に待機させている。
宿を中心にしらみつぶしに探せばすぐに見つかるだろう。
まさか王城でお泊まりをしていた事も、もう既に傭兵団の素性がバレているとも知らずに。
_______
しばらくするとシータは東の門近くに到着した。
(戦闘音が聞こえる、まさか中まで入り込んでいるのか?)
様子を伺う為走るのを止めて歩いて行くと、門の外に大きくて白い大蛇とそれを囲む騎士団がいた。
門が破壊されているようだ。
周りに小さな魔物もいるがそれは冒険者達が相手をしている。
「ていやああああああ!!」
騎士がそれぞれ剣を振り下ろし、ガキンと音がする。
どうやら刃が通らないようだ。
「討伐される心配もないか」
蛇は痛くも痒くもないような素振りでそのまま動かない。どうやら攻撃する意思はないようだ。
だが早めに止めさせた方が良いだろう。
なにせ神の化身なのだから。
「手を止めてくれ!そこの蛇には攻撃してはいけない!!」
そう叫ぶと大蛇と騎士たちが一斉にこちらを見た。
正しくは、シータが腰に下げている剣を凝視していた。
「ヒッ」
何か悲鳴が聞こえる。
別に蛇が攻撃してきたとかそういうものではない。
「エルダの魔剣……」
「やめろぉ!!こっちにくるな!!」
「こっ殺されるぅ!!!!」
異常なまでにひいいいと騎士たちが後退りをする。
この木剣で何をしたんだ母さん。
大蛇よりも怯えられていることになんとも複雑な心境になる。
『小僧、その剣はエルダのもの。ということは息子か』
声が頭に響いてくる。
話が通じるようで安心した。
「はい、息子のシータです。大蛇様はどうして王都にいらっしゃったのでしょうか」
『うむ、エルダと違って礼儀正しいな。楽にせい。最近森にいる小物が増えてうるさくてな、人間どもが小細工をしておるようで。サイハテが王都に来ているという話も耳にして大掃除をしてもらおうかと思ってな』
おおそうじ。
その為に王都まで出てきたのか。
それにしても蛇に耳ってあるのだろうか。
なかったはずだが、と色々突っ込みたくなったがシータは飲み込む。
「えっと、人間が何か森で何かを仕掛けてそのせいで魔物たちも騒がしくなり、サイハテの村人になんとかしてもらいにこっちに来た、と」
シータは話の内容が騎士たちにわかるように声に出して要約した。
『ああ、そうだ。魔素に耐えられる者でないと念話に耐えられず会話のできない抜け殻になってしまうからな』
蛇なりのジョークを言っているのだろうか。笑えないのだが。
『それと話の通じない厄介なものが来ておってな』
大蛇様は空を見上げる。
先程までの綺麗な青空が、黒く染まった。
『あやつが勝手に森に卵を落としたのだが、わしが盗んだと勘違いしておる』
太陽を遮り、王都全体を影が覆う。
ワイバーンよりも大きい漆黒の魔物。
「ドラゴン」




