第42話 天罰を下す聖女様
「ラピス!!」
完全に猫と化す前に、私はエリーの声で我に返った。
「にゃ!!」
シュバッと人間の姿に元に戻ってエリーの元に走り寄る。
「エリ〜〜〜!!!!」
思わずぎゅうと抱きつくとエリーもぎゅっと返してくれた。
「大丈夫だった!?イダーテお兄さんに何かされた!?」
我に返って、イダーテの前で思いっきり泣いて己の醜態を晒したことや教会に来てからエリーが来るまでずっと気持ちよくもふもふなでなでされていたことを思い出し、顔を真っ赤にする。
「されてないされてない、あれは猫、あれは猫なのよ、つい気持ち良すぎてうとうとしてただけで」
顔を見られないようエリーの胸に顔を埋める。
頭を撫で撫でされると思い出して恥ずかしさが増すからやめて欲しい。
どうしてサイハテの村人はこう撫でるのがうまいのか。
ごろごろと言ってしまいそうだ。
「シータからラピスが泣いてたって聞いたけど」
ビンッと耳と尻尾が立つ。
ただその声はとても冷たく、辺りもほのかに冷たい風が吹いている。
「うう、あれはエリーの話を聞いて、エリーが、その、いつも私の話をしてたって聞いて嬉しくて」
本当に?とエリーがイダーテお兄さんに睨みをきかせる。
顔を青くしながらコクコクと頷くイダーテ。
「でもなんでイダーテお兄さんと一緒にいたの?」
「占いでエリーたちについての悪い結果が出て、たまたま配達人がいたからエリーのところに連れてってってお願いしたの」
「そう、僕は正当な報酬をいただいていただけだよ」
報酬言うな。
「悪い結果?」
「ええ、今日ではなかったみたいだけど……あれ?でもあの男、教会から出てきてないわよね?」
「出てきてないよ。ちゃんと見張ってたよ」
「本当か?」
シータの言葉と共に全員で訝しむようにイダーテを見る。
「あ、そうだごめんなさい、シータお兄ちゃんが手当てしてる間に教会の人に変な男の人がいるって伝えてたの忘れてたよ」
ヴィラという男の子が申告してきた。頭の良い子だ。
「じゃあ教会の人が捕まえたのか?」
先程でてきた教会の方をみる。
「ううん、たぶん捕まえてないよ。普通にまだ中にいると思う」
どういうこと?とエリーを見る。
「シータ、何回か威圧してたよね」
「え?オレ、抑えれてたと思ってたけど……」
シータは幼馴染の母親にまで威圧してしまったのかと少しショックを受ける。
たしかに、お兄ちゃんは何度か絶対威圧してるだろうってことがあった。
でも圧はなかったから抑えているのかと思っていた。
「私も勇者の話が嫌すぎて魔力漏れ出てた」
シータの威圧はエリーを想っての事だと思うが、勇者の話が嫌で威圧していたのだと勘違いしているのだろう。
大真面目にエリーは言った。
「お母さん、結界を使うのがとても上手いの。自分には使えないけど、あらゆる能力や呪いだったりを転移させることも」
「じゃあ、もしかして今頃……」
思わず教会を見てふふと笑うエミアさんを思い出す。
そういえば教会の人もエミアさんを見て怯えていたっけ。
「だから、お母さんに似てるって言われるととても複雑な心境になるのよね」
「そういえばエミアさんは教会では『天罰を下す聖女様』と言われているらしいよ。彼女の不興を買った人間は超常現象で酷い目に遭うんだって噂があった」
イダーテはいつかの新聞のエミア様特集を思い出す。
「言い寄る男も青い炎に焼かれるらしくて、死にはしないらしいけど本当に神様の化身ではないかと囁かれているんだってさ」
青い炎と聞いて、カラクリが完全にわかってしまった。
今頃、男はシータの威圧とエリーの氷漬けのWパンチで悲惨な事になっているだろう。
なんとなく、何をするつもりだったのかわからないけれど男を憐れんだ。
「これからどうするの?」
どうしてつけられていたのかはまだわかっていないが、おそらく犯人は集団だろう。
宿もばれているだろうし、寝ている間に襲われてしまう可能性がある。
「アジトとか突き止めたいけど、つけてきた男も生きてるかわかんないしな〜」
「あっそうか。ごめんなさい、僕が教会の人に言っちゃったから」
ヴィラがしょんぼりとする。
「大丈夫よ。ヴィラが言わなくてもたぶんお母さんがやっちゃってたから」
それは大丈夫といえるのだろうか。
「もしよかったら、今日はうちに泊まりに来たらどうかしら。まだ、悪い事がなんなのかわかっていないし」
「そうだね、お邪魔しちゃおうかな」
「え、いいな。僕も泊まりたい」
イダーテがハイハイと手を上げて言う。
「あなたは狙われないところに家があるでしょう」
「じゃあ、シルビアさんのところに連絡してあげるから!」
この通り、と手を合わせて言うイダーテ。
別にいいけど、アレはもうやらないからねとラピスはぷい、と顔を背ける。
一体何があったんだこの二人。
今の今までずっとラピスのしっぽが動くのをみていたディナは我に返って聞いた。
「でもこんなに大人数なのに大丈夫なの?えっと、ラピスさん」
「部屋なんて余る程あるわ。そうだ、自己紹介がまだだったわね」
ラピスは優雅にお辞儀する。
「私はこの国の第七王女、ラピス・アスタリア。エリーと同じ学院の魔術科だったの。ラピスでいいわよ、ディナちゃんとヴィラくん」
一瞬ラピスが何を言っているのか理解できなかったのか、ディナとヴィラは固まる。
「お う じょ さ ま ?」
「ええ妾の子だけど。王族特有の占いができるから、一応王女として扱われているわ」
ラピスはさらりと仄暗い出自を話す。
「えええええエリー!王女様とお友達なのー!?」
妾の意味がわかってないようだが、あまり気にされても困る。
「エリーと同じく普通に接してちょうだい。そこまで偉くないんだから」
「いや、でも本当は普通に失礼なことしたら処刑されるレベルの偉さだよね」
エリーとシータがチラリとイダーテを見た。
「許可はとったよーなんでこっち見るのさー」




