第40話 気まずいお茶会
祝40話!
美味しい紅茶に美味しいお菓子。
なのに味がしない。
とても気まずい。
先程シータお兄ちゃんの顔が曇っているかと思えば、エミアさんの話を鵜呑みにしたりしないようにと言われた。
何の事かよくわからなかったけれど、だんだんわかってきた。
「そうして、神様に選ばれた勇者はサイハテを目指すの」
エミアさんが勇者の話ばかりする。
最初の方は自己紹介をしてサイハテでは何をして過ごしてるのといった世間話だったのだが、気が付けばいつの間にか勇者の話にシフトしている。
エリーお姉ちゃんとシータお兄ちゃんが時々話題を変えようとしても、何でもかんでも勇者の話に切り替わる。
たとえば、このお菓子が美味しいといえば「勇者御用達のお店のお菓子なの」となり、教会の仕事の話になれば、勇者の治癒力についての話になる。
鵜呑みにとかはしないけど、会ったこともない勇者の話でお腹いっぱいだ。
でも、ディナは勇者というキーワードを上手い事無視して、(勇者が戦った)ダンジョンの魔物への攻撃についての話として楽しんでいるようだ。
そんなこんなでかれこれ3時間くらい経った。
「それで、エリーは勇者と連絡を取り合ったりしているの?」
その場にいた全員が紅茶を吹き出しそうになった。
「何で私が勇者と連絡を取り合わないといけないの」
「だって勇者から愛の告白を受けたのでしょう?」
きょとん、とエミアは首を傾げる。
僕とディナは思わずエリーお姉ちゃんとシータお兄ちゃんの顔をそれぞれ見た。
初耳だ。そしてシータお兄ちゃんが怖い。
「何度も断ったし、はっきり振ったよって私言ったよね」
シータお兄ちゃんから圧はないので威圧は使ってないようだ。
でも明らかに様子がおかしい。
目が怒った時のエリーお姉ちゃんみたいになってる。
真っ黒だ。
「どうして?身分差で気にしているの?あの人も勇者はだめだって言ってたけれど、お母さんは応援するわよ?」
話が通じなぁい。
「あのね、勇者はちょっと性格が悪……趣味じゃないの。それに私お父さんの仕事継ぐつもりだから、勇者となんて無理」
「あら、サイハテに来て貰えばいいじゃない」
何故ここまで勇者推しなんだろう。
エルダさんと親友だって聞いてたのに、想像と違いすぎる。
「だから、私勇者のこと嫌いなんだってば!何度も何度も断ってきたのに、しつこいし取り巻きにはいじめられるし、止めないし。教会だから勇者側にまわらないといけないのはわかってるけどそれを私に押し付けないでよ!」
エリーお姉ちゃんは立ち上がって怒った。
でも冷気は漏れ出ていない。
「ふふふふっ」
エミアさんが笑い出した。
先程までの上品なにこにことした笑顔ではなく、お腹を抱えて笑っている。
こっちの方がエリーお姉ちゃんに似ている。
「も、だめ、笑いが止まらないボロクソに言われてるじゃないの勇者、ふふふふふふ」
ひーっと涙目になっている。
全員ぽかんとした顔でエミアさんを見た。
「いや?やっとエリーが本音を出してくれたなって」
ニヤリ、とエミアさんが笑う。
「はーあ、きつかったわぁ。はっきり勇者の話はもういいって止めて欲しかったのに。後半ちょっとヤケになっちゃった」
上品さが消えて、エリーのようなちょっとドヤっとした顔が一気に親近感がわく。
「お母さんもね、勇者嫌いなの」
「えええ……」
エリーがストンと席に着くと、エミアさんはスッと袖から何かを取り出した。
「村長から、勇者に娘さんをくださいって言われたって連絡をくれたの。だから断る理由が欲しくて、本人の意志という証拠をちょっとね」
コトリ、と机に置かれたのは録音機能が付与された四角い魔導具。
「なっ」
「勇者の推しポイントを探すの、大変だったわぁ。ぜんっぜん見つからなくて。勇者が来たら聞かせておいてあげるわね」
にっこにこの笑顔でお茶目に笑う。
ヴィラとディナはエルダとエミアが友人だという話を思い返す。
これはもしかして悪友が正しいのでは?
「ペンダントに関してもねぇ、本当は途中で教えてあげるつもりだったんだけれど学院で優秀な子は強制的に勇者の仲間になることが決まっていたから、申し訳ないけどそのままにしていたの。勇者しつこいし、無理やり仲間にされたら嫌でしょう?」
エミアさんがごめんね、とシータにウィンクした。
「……本当びっくりしたぁ、お母さんが勇者教にでもなったのかと焦ったよ」
エリーが座りながら言うと、エミアは目を真っ黒にして言った。
「ふふふ、気持ち悪いこと言わないで?」
親子だ、この二人本当に親子だ。




