第39話 治療拒否
〜教会の外にて〜
『男も教会入って行ったけどどうする?』
サイハテの村人イダーテが屋根の上から通信機を通じて話しかけてくる。
先程から軽々と屋根を飛んでいるが、彼の能力は本当に早脚なのだろうか。
「男が出てくるまで待ちましょう。たぶんエリーたちはエミアさんと話もするだろうから、時間がかかって出てくると思うわ」
『おっけー』
近くの家のかげに隠れて一瞬だけ人の姿に戻って返事をして再び猫に戻った。
これで一息つける、と教会の石段の上にのって座っていると、ラピスは突然の浮遊感を覚えた。
「時間あるから今のうちに少しもふらせていただくよ」
見上げると逆光で眩しいイダーテの顔が目の前にあった。
人間の姿だったら赤面していただろう。
既にガッチリホールドされている。
「にゃー!」
ラピスの叫び声が響いた。
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〜教会の治療室にて〜
「エリー、シータ君、久しぶりね」
「お母さん」
シータは軽く頭を下げ、教会の人は震えて今にでも泡を吹いて倒れそうだ。
「シータ君が怪我したのね。私が治療するわ。全員部屋の外に出ていなさい。すぐに呼ぶから」
「はい」
「シータは私の魔術暴走を止めようとして……」
「見ればわかるから、外に出ていなさい」
エミアはにこりと微笑み、エリーも外へ出るように促す。
「はい……」
エリーが肩を落としながら部屋を出て行った事を確認すると、エミアは言った。
「別に治療で外に追い出す必要はないけど、あなたにはあるのでしょう?シータ君」
「すみません、わがままを」
エミアはシータの両手を結界で囲み、治癒の魔法を使った。
結界の中で両手が光に包まれたかと思えば、綺麗に元に戻った掌が現れた。
「たぶん私が何回か使えば治せてしまうけれど、それでは面白くないものね」
エミアはシータの左腕を見た。
治すのを渋っていたのはそう、左腕もついでに治療されてしまうのが嫌だったからだった。
「それにしてもあの子がまた暴走したって何があったの?」
「エリーの友達が泣いてたっていうのを聞いて、それで」
エミアは一瞬目を丸くしてふふっと笑う。
「本当エリーはあの人にそっくりね。良い事を聞かせてもらったわ」
「村長さんにですか?どちらかというとエミアさんに似ていると思いますが」
「いいえ、見た目だけで中身も魔力もあの人にそっくりよ。怒った顔もそうかしら」
微笑みながらエミアは続ける。
「だから魔力封じのペンダントを渡したのだけれど、やりすぎてしまったようね」
魔術封じのペンダント。あのペンダントの所為でエリーの学院生活は。
シータは能力を使わないように、一呼吸置いた。
「あのペンダントは卒業式の日に、壊れました」
「そうなのね」
「壊れて、エリーは泣いてました」
それを聞いても尚、エミアは微笑み続ける。
「エリー、そこまで大切にしてくれていたのね。嬉しいわ」
「あのペンダントがなかったら、エリーは楽しい学院生活を送れたかもしれないのに?」
シータはエミアの目を真っ直ぐ見る。
エミアはまだにこにこと笑っている。
「何故、ペンダントが魔術封じだと教えなかったんですか?言うタイミングなんていくらでもあったのに」
サイハテの魔術師が、魔術を使えなくなるなんて大変な事だ。
教会にも連絡はすぐに入っただろう。
ペンダントが原因であることを教えなかったのはわざとだったのだ。
能力を使わないように、とシータは座っている椅子の縁を握る。
「村人は勇者より秀でていてはいけないの。村人は勇者に助けられる存在だから。そうでなくてはいけないの」
エミアの笑顔は崩れない。
確かに、中身はエリーとは全く似ていないようだ。
「でも、それでも結局エリーは勇者の助けなんて必要なかった。オレも、サイハテも勇者の助けがなくても平気で生きている」
「そう、でもいつか必要になると思うわ。貴方たちも」
エミアは意見を曲げず笑顔で言うと、ドアのほうを見た。
「そろそろエリーと子供たちを呼びましょうか。さっき子供たちにお茶をしましょうってお話ししたの」
ね?と有無を言わさせないような問いかけをする。
「エリー、シータ君の掌の治療終わったわよ、サイハテの子供たちも呼んでらっしゃい。お茶にして少しお話ししましょう?」
部屋の外でエミアさんの声がする。
シータは黙ったまま、エリーに声をかけられるまで立ち尽くした。




