第38話 教会に転がる村人
(教会にはたしかエリーお姉ちゃんのお母さんのエミアさんがいるんだっけ)
王都で一番大きな教会。
中に入ると様々な色のステンドグラスが壁中にあってキラキラしている。
星座のモチーフだろうか。いくつか物語のようにまとまって並んでいる。
「すっごいおっきいキレイ!」
ディナが目を輝かせていると、周りにいた人たちが微笑ましそうに見ている。
ちょっと恥ずかしいからやめて欲しい。
「すみません、至急彼の手当てをお願いしたいのですが」
近くを歩いていた教会の人にエリーが言うと、小さな悲鳴が聞こえた。
「ヒッ!?エミア様!?」
教会の男の人が凄く怯えた顔をしてる。
凍え死ぬのかというくらい震えているけど大丈夫なのかな。
”エミア様”と勘違いするくらいエリーお姉ちゃんはそっくりなのだろうか。
「娘のエリーです」
「あっ……失礼致しました、エリー様ですね。彼の手当てというのは」
エリーお姉ちゃんがシータお兄ちゃんの手首を引っ張って手のひらを見せる。
「魔術で凍傷してその後火傷を」
シータ本人が平気そうな顔をしていたので気づかないかもしれないが、その掌は爛れていた。
あまりの酷さに教会の男の人は顔をしかめながら水の球を作り出し、ベールにして手のひらを包み込んだ。
「よく我慢していられましたね。これは高位の方でないと難しいです。こちらへ」
教会の人に奥の治療室へと案内される。
エリーはシータの背中を押して部屋に入らせる。
「大丈夫だって、そんなに痛くないし」
「痛くないのが大問題なのよ」
「そうです、痛覚が麻痺しているという事は、悪化したら手を切り落とさねばならないことになるかもしれないのです。しかも魔術での怪我だとしたら尚更。すぐさま治療を」
その言葉を聞いてディナも兄の背中を押して部屋に追いやる。
「お兄ちゃん黙って治療受けて。じゃないとお父さんに告げ口するよ」
ヴィラはどうしてエルダさんではなくシルディールさんになんだろう、と思ったがシータは大人しく座った。効果はあるようだ。
「僕たち、邪魔になるといけないから教会の広間で座って待ってるよ」
「そうね、ごめんね。教会からは絶対に出ないでね」
つけて来てる男にも気をつけて、と小声で話す。
ヴィラは頷いてディナの手をつかんで部屋を出た。
「お兄ちゃん、すっごい平気そうな顔してたけどあんなに酷いことになってたのね。エリーが焦るのも当たり前だわ」
ディナはしゅん、と教会に入ってはしゃいでしまったことを反省する。
「シルディールさんに告げ口って言ったけど、エルダさんの方がいいんじゃないの?」
ヴィラがさっき疑問に思ったことを口にする。
「ううん、怒るときはお父さんが一番コワイよ。いつもにこにこしてるけど、すっごいコワイ顔になって、ずっと正座でどうしてこんなことしたの?こうなったらどうするつもりだったの?って質問攻めして、ご飯は嫌いな野菜ばかりになって、一日反省するまで外に出させてくれない」
「全然想像つかないんだけど」
にこにこしてるシルディールさん。
困った顔や悲しんでいる顔は見たことあるが、怒った顔はない。
「普段はお母さんに怒られて終わりなんだけどね。昔ね、ヴィラと会う前こっそり狩りについて行ったことがあって、すっごい怒られた」
「それは怒られるね」
シルディールさんも怒る時があるんだなぁ、と見てみたいような見たくないようなとヴィラはにこにこしているシルディールさんを思い浮かべた。
「あれ?」
ディナが足を止め、くんっと袖をひっぱられたので何事かとヴィラは振り返る。
廊下の分かれ道の奥から、エリーと同じピンクの髪色の女性が歩いてこちらに来ている。
ヴィラも立ち止まり、その人を見た。
(エリーお姉ちゃんそっくりだ)
髪は下で一つにまとめ、薄く化粧をしているし目元にほくろがあるのでよく見れば違いはある。
エリーより大人びた女性、と言うのが正しいだろうか。
「こんにちは、サイハテの子ですね。エリーの母、エミアです。エリーがどこにいるか知っていますか」
エミアはヴィラとディナとの目線を合わせて朗らかに笑いながらたずねる。
「えっあっはい、エリーお姉ちゃんはシータお兄ちゃんとあっちの部屋にいます」
「ありがとう、よかったら後でお茶にしませんか。お菓子がありますので」
こくこくと頷くとエミアは「ではまた後で」とにこりと微笑んで上品にスッと立ち上がり、教えた部屋へと向かって行った。
「すっごい動きもキレイ、あの人がエリーのお母さん?」
いつの間にか後ろに隠れていたディナが呟く。
優しそうな人だったけどどうしてあんなに怖がられているんだろうか。
「ディナって意外と人見知りだよね」
「だって、なんかすごい人ってみてると隠れたくなるもん」
学院長の時も隠れてたけど本能なのだろうか。
すごい人センサーがあるのかもしれない。
センサーに引っかかった人には逆らわないようにしよう。




