第37話 追跡
美味しく食べて店を出ようと立ち上がった直後、シータの動きが止まった。
「どうしたの?」
「ん、これは言っていいのか悪いのか」
シータが腕を組んで悩み、うんと言って意を決したかのようにエリーに言った。
「落ち着いて聞いてほしい。つけてる奴が動き出したわけではないし危険はなさそうだが、お願いだから飛び出さずに聞いてくれ」
「……うん」
返事をするとシータは息を吐いた。
それほどの事が起きてるって事?私がそれを聞いて飛び出すって事?
「ラピスが泣いているようだ」
「は?」
エリーの目が真っ黒になって冷気が吹き出し店が一気に寒くなる。
「エリーお姉ちゃんエリーお姉ちゃん、氷出てる氷出てる」
「出てる出てる!!抑えて抑えて!!」
ふと、右手を見ると氷が出ていた。
「ああ、ごめん」
無理やり魔力を炎系統に変換して溶かす。
「「今度はあっつ!!」」
「だからエリー!落ち着け!!悪い感じのあれじゃないから!!」
肩をつかんで揺らされると、少し落ち着いた。
シータの手からジュウウウウと蒸気が出ていた。
「うわあ!ごめんなさい……」
やってしまった、とエリーは真っ青になる。
「いや、オレが言葉足らずだった。ごめん、よくわかんないけど悲しくて泣いてるわけじゃなさそう。安堵?みたいな感じ」
シータは隠すように手を後ろにやる。
「そう……それは後でイダーテお兄さんに問いただすとして、火傷してるよね?」
怪我をすぐに隠そうとする彼をエリーは逃さないよと手首を掴んだまま器用にお会計をして店を出る。
「ディナ、ヴィラ。ごめん予定変更、明日お菓子屋さんにするね」
「いいよ、治す方が大事だし」
うんうん、と二人は頷くのを見るとエリーはシータに向かいあった。
「シータ、教会に行こう。今すぐに」
その言葉、知らない人が聞くと誤解を生みそう。
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ラピスが落ち着いてきたところで、ゾワッとイダーテの背筋が冷たくなった。
(なんだ?)
店からも冷気を感じた気がする。
ラピスも何かを感じたのか、店を見つめていた。
「あ、エリーたちが出てきた。……なんかシータが引きずられてる」
「……本当ね、どうしたのかしら」
つけて来てる男もエリーたちを追っている。
まさかラピスが泣いてるせいでエリーが魔力暴走を起こしかけたことを知らない二人は顔を見合わせて頷き、小走りで後を追う。
「僕、上から様子見てくるよ」
「え?」
ラピスが声のした方を振り向くと、すでにイダーテはいなかった。
『屋根の上にいるよ』
耳元で囁くようにイダーテの声が聞こえてびくりとする。
(びっっっくりした……通信機か)
自分で渡しておいて完全に忘れていた。
我ながら性能が良すぎて本当に耳元で囁かれているように聞こえてしまう。
心臓に悪すぎる。
ラピスはドキドキしてる胸を抑え、一呼吸した。
『あ、シータが手を火傷したみたいだね。教会に向かってるみたい』
シータがイダーテに気が付いたようでエリーに向かって何かを呟く。
『こっちに気が付いたみた……い!?』
イダーテの小さく振った手がぴたりと止まる。
一瞬だがエリーがイダーテを鋭い眼光で睨みつけた。
『どして!?なんかめっちゃ睨まれたんだけど』
「一体何したのよ……というかサイハテってなんでこんなに足が速いの?」
前方少し遠くのにいる男が息切れをしながら走っている。
ラピスも疲れて来たので猫の姿になって飛ぶ。
『あ”っ!今もしかして猫になってる!?』
小声だけど通信機からキンッと声がした。
集中しなさいよ、と言いたいがこの姿ではにゃーしか出ない。
『ねえ聞いてる!?ちょっとお猫様!』
(敬語はやめてとは言ったけど、調子に乗りすぎてきたわね)
イダーテのお猫様の声を!!という小声の叫びを聞きながら教会に着くまでラピスは無言で追い続けた。




