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サイハテの村人たちは勇者がいなくても平気なようです 〜ただしご近所は魔王城〜  作者: 青咲花星


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第32話 無駄に有能な村人

「いや、ずっと全力でもふらせてください!!」


魔法のコーティングまでかけたのに、思わずラピスは人の姿に戻った。

この男は一体何を言っているのだろうか。


「お願いします、お猫獣人様のお猫様姿をもふらせてください。お猫様が大好きで大好きで、でもアレルギーで、人生で一度ももふれたことがないんです。お願いします。この通り」


イダーテは土下座して頭までつけはじめた。

ラピスは怪訝な顔で言った。


「その辺の猫に魔法かけてもらって触ればいいじゃない、エリーに頼めばいつでもできるじゃない」


「やってもらったことがあるんです、ダメだったんです。空気でもうダメみたいなんです、お猫様と同じ空気吸いたいのに」


やったんかい。


「でも先程、お近づきになった事で確信致しました。普段は近くでも秒で蕁麻疹が出てしまうのに、獣人のお方でしたら、平気なのだと」


だってほら!何も出ない!と目を輝かせながら腕を、制服の袖を捲って見せてくる。


ラピスは息を呑んだ。


綺麗な肌に程よい筋肉。

服に隠れてわからなかったが、結構鍛えているようだ。

サイハテの村人の顔が整っているのはわかっていたが、プロポーションも良いとか少し腹が立つ。


(最近ちょっと体重増えたなって思って悩んでたのに)


王宮から出てきたときに、いつもの抜け道でお腹がつっかえたことを思い出すラピスが目を細めているとイダーテはハッとした顔をして、ほら!ともう片方も捲り始めた。


新手の露出狂かしら?


「……わかりました。移動時の抱っこはしょうがないし、撫でるくらいなら許してあげる」


イダーテの目が輝いた。顔が良いので尚更眩しすぎる。

が、一瞬で神妙な面持ちになった。


「何」


「お腹もお触りしてもよろしいでしょうか……」

「なんだったら猫吸いもしてみたいのですが……」


ラピスはイダーテを睨み、無視し再び猫の姿になる。

要求が増える前に早く行こう。


________



「着きましたよお猫様」


酔うといけないので目を瞑るように言われ、ビューンッと音がしたと思いきや『ウィルゴーの宿屋』の近くに着いたのはほんの一瞬だった。


ラピスは降ろしてとイダーテの顔を見ると、彼の顔はとても緩んでいた。

みないようにしていたのにとっても、ゆるんゆるんに緩んでいる。


全然降ろしてくれないのでバリっと引っ掻くと彼は名残惜しそうに。

それはそれは名残惜しそうに、お猫様(ラピス)をゆっくりと降ろした。


「少しゆっくりめに来ましたが大丈夫ですか?気持ち悪かったりしてませんか?」


にゃ、とお猫様は首を横に振り、お猫様は人の姿に戻った。

イダーテのとても残念そうな顔に、ラピスの顔はひくつき、ため息を吐く。

猫限定の変態か。


「ありがとう、でもそのお猫様とかお猫獣人様って言うのはやめてくれないかしら」

「えっとじゃあ第七王女猫様?」

「肩書きも猫様もやめて」


はぁ、と再びため息を吐く。


「ラピスでいいわ。敬語もやめて頂戴。貴方の方が年上なのでしょう、エリーたちと同じような扱いでいいわよ」


「承知しましたーじゃあ僕のことはイダーテでお願いしますー」


(人の姿だと普通なのよね)


謎のもやもやを振り払うようにラピスは宿屋に向かおうとしたが、ぴたりと立ち止まった。


「誰か居ますねぇ」


イダーテがラピスの後ろから覗く。

宿屋を挟んで反対側。

柄の悪そうな怪しい男が一人、中の様子を伺っていた。


「明らかに怪しい人ですね、悪い結果に繋がる何かでしょうか?」


小さな声でイダーテは首を傾げる。

悪者だとしてもサイハテの彼らなら簡単にやっつけてしまえそうだ。


カランカランと誰かが出てきてその音で男は隠れる。


「エリーたちが出てきましたね。ラピス様、どう致しますか?」


イダーテの抜けない敬語にちらりとラピスは見る。


「男がどう出るか様子見で……あと敬語やめないと例のお願いきかないわよ」


「それはこまっふぼっ」


イダーテは叫びそうになったが、ラピスは何かを彼の口に突っ込んだ。


「にゃがい」


「鎮静作用のある飴よ。吐き出したらお願いはなかったことにするわ」


イダーテはガリボリと噛み砕き、飲み込む。

拷問レベルでかなり苦くて飲み込んでも後味が続くはずだが、そこまでラピスをもふりたいのかと、接触しそうな状態からラピスは距離をおきたくなった。心の距離は既に1キロくらいは離れている。

だが監視の方が大切だ。我慢して静かに様子を見る。


エリーたちは宿屋の店主と何か話しているようだ。

こちらからは少し遠いので何を話しているのかわからない。

向こうの男からは聞こえているのだろうか。


「じゃあシルビアさん、行ってきますー」


エリーたちは手をふりながら宿屋から離れていく。


「男が後をついて行ったわ。私はついて行くけど貴方は仕事があるでしょう?帰っても大丈夫よ」


「今日は全力でもふらせて貰えるまで帰らない。それに仕事はさっき終わらせた。エリーたちが危険かもしれないからサポートしてくるって村にも伝えたから最後まで付き合えるよ」


イダーテは真面目な顔で金貨を渡そうとしていたラピスを手で制す。

目が本気(ガチ)だ。


出発する前に10秒待ってくれと言われていたがそんな事をしていたのか、何この無駄に有能な男。

もふり如きに恐ろしすぎる。


「……そう、なら行くわよ」


明らかにお願いから逃れられなくなったラピスは頭を抱えた。

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