第31話 鬱憤
朝食を食べ終えるとエリーはそうだ、とある事をシルビアさんに聞いた。
「魔術をぶっ放しても大丈夫な場所とかってありますか?」
むんっと拳を握るエリー。
シルビアさんの目が点になる。
「えっと?それは訓練とかしても大丈夫な場所、人が居ない空き地とかってことかしらぁ?」
急に恥ずかしくなったのか、もじもじしはじめるエリー。
「はい、その、私毎日魔力放出をして鍛えてるんですけど、王都に来てからできなくて、溜まってるみたいで……」
もじもじしながら手を合わせるエリー。
「そう、それで昨日、普段通りに〜と思ってたのについ、軽ーくとぶっ放しちゃって、思ってたよりまずいなって思いまして!!」
全員がばっとエリーを見た。
昨日、ヴァルト先生との戦闘時。
「エリー、君は特別に氷魔法を使うことを許可しよ「アイスソード!!」
と叫んだあの時、まさかあんなに大きな大剣が出てしまうとは思っていなかったのだ。
つい、出してしまったのだ。
「軽ーくじゃなかったよね」
「軽ーくじゃなかったわね」
「軽ーくだったのか?」
えへへ、と笑って誤魔化すエリー。
「ちょびっと力んじゃって、直前に慌てて抑えたんだけど……思ってたより日々の鍛錬がストレス発散になっていたみたいで」
ちなみに27話、エリーが「大丈夫。すっきりしたから」と言っていたのは、魔術をぶっ放してすっきりしたの意味であった。
ヴァルト先生のことは嫌いだが、正直どうでもいいしちょびっとイラッとしただけだ。
そう、ちょびっとイラッとした拍子にぶっ放しちゃっただけだ。
昨日の凍えるような寒さを思い出すヴィラとディナ。
「ちょびっと?」
「あれで抑えてたの?」
あらゆるツッコミに顔を覆うエリー。
「……まあ、ストレスを溜めるのは良くないよな。王都に人が絶対来なくて更地にしても平気な所ってあるのか?」
「難しいわねぇ……そうね、王都の外、東の森だったら大丈夫じゃないかしら。確か巨大な蛇の魔物が出たとかで立ち入り禁止になっていたわ。ギルドで依頼を受けてから行ってみたらどうかしら」
「勇者は討伐しないのか?」
シータがシルビアに聞いた。
「今、勇者様はまだ誰も踏破できていないダンジョンの攻略中らしいわよぉ。南西の森隠のダンジョンですって」
南西?攻略できてないダンジョンってまだあったのか。とシータは呟く。
南西にダンジョンは一つしかない。
シルビアはその言葉に一瞬「ん?」と疑問を持ったが、何かと勘違いしているのだろうと流した。
「魔界に行くには最終層にあるお宝の世界樹の花と種が必要で、攻略に集中する必要があるからしばらく帰ってこないんじゃないかしらぁ」
「誰も踏破できてないのに、最終層のお宝がわかるの?」
ヴィラが首を傾げた。
「ダンジョンは神様が創り出した、勇者の為の修行場みたいなものだとされているわ。100年ごとに次世代の勇者が生まれる時にダンジョンも生まれ変わるのよ。宝は全て同じ内容らしいから、過去の勇者が手に入れた記録があるものだったら事前にわかるってわけ」
へぇーと言いながら話を聞いているディナも、少し興味があるようだ。
「博物館とかでも行ってみる?ダンジョンとか過去の勇者の記録とか沢山あるわよ」
「僕は壊しそうだからいいや、でも大丈夫ってなったら行きたい!」
ヴィラがそう言うとディナもじゃあヴィラが行けるようになったら私も一緒について行ってあげる、と言った。
あんなに自分の能力の事で泣いて引きこもってばかりだった少年が、今ではこんなに前向きになっている。
とても喜ばしい事だ。
「あれ?でもあなたたち、確か今の勇者と同級生だったんじゃなかったかしら?」
シルビアさんがふと口に出した。
ぎくり、とエリーとシータが視線を逸らす。
「……そうね、そうだったわね。うん、勇者、いたわ」
エリーの歯切れ悪い返答に、ディナとヴィラは「あ」と思い出す。
そう、二人はシータが勇者を威圧で気絶させてしまった話を、王都に来た初日に聞いていた。
「勇者ってどんな子なのぉ?かっこいい?」
「顔の良し悪しはわからないけど人気者だったとは思う、女子はみんな彼の事をイケメン、かっこいい、と言っていた」
何回か威圧で気絶させてしまったのだ。一応株は上げておいてあげよう。
という顔をしているなぁ、とディナは黙って自分の兄を見た。
「やっぱそうなのね〜確か最近の新聞で勇者が『私は想い人の為に戦う。彼女が居てくれるおかげで私は頑張れるのだ』とか言って記事になってたわぁ〜。想い人って誰!?って女の子たち絶叫してたわねぇ」
それを聞いたエリーの顔からはスッと笑顔が消え、黒い目になった。
昨日せっかく元に戻ったはずなのに。
「まぁ、そうですね。勇者、うん。勇者が話しかけてくるだけで、一瞬で周りの女の子たち全員敵になるので、ね」
エリーはここにいる誰にも言っていない事がある。
たぶん、学院にあまりいなかったシータも知らない。
隠しているわけではない。特に言いふらす必要もないしそのつもりもない。
ただ、学院生活が一層エリーにとって最悪なものへと加速したきっかけの一つではある。
うーん私、勇者の事振ったんだよなぁ。
流石に他の人の事、だよね?
と、エリーは振った後もしつこく話しかけてきた諦めの悪い黒髪の勇者を思い出す。
だがしかし、顔は思い出せなかった。
(殆どの生徒が髪の毛黒いから顔で覚えられなかったんだよねぇ)
「お兄ちゃん」
ディナが顔をしかめながらシータの服の裾を引っ張る。
はっと視線をあげると、シルビアさんとヴィラが困った顔をしていた。
エリーが黒い目をしていたので勇者から、取り巻きから何かされたのか?とか、エリーが勇者に想い人がいてショックを受けている一人なのでは?と久しぶりに威圧を放っていたのだ。
「ああ、すまん……」
その威圧に気づかないエリーはというと、ダンジョンに居るならどうせ会わないだろうし大丈夫かな、と自己完結していた。




