第23話 最強の防具
サイハテの村人 in 王都 2日目 朝。
「えへへへへへ」
エリーお姉ちゃんがおかしくなってしまった。
「ディナ、お姉ちゃんの様子がおかしいんだけど。いや昨日もおかしかったんだけどベクトルが違うというか」
「嬉しそうならいいじゃない。べくとるってなに?」
「ベクトルっていうのは方向性とか、向きとかをさす言葉で……」
僕は何故かディナに数学的な説明をはじめる。
ディナはこういう話でも素直に聞いてくれるのでつい話してしまうのだ。
ってそうじゃない。
エリーお姉ちゃんがずっとニコニコしてて怖い。
昨日はお目目が真っ黒でもっと怖かったけど。
学院行って大丈夫なのかな。
そう考えているとシータお兄ちゃんがお菓子の入ったカゴを持ってきた。
「これ、昨日シルビアさんがお前たちにって」
「わぁ本当!?」
キラキラした目でディナがカゴを覗き込む。
「シルビアさんに会ったらお礼言っておきな」
シータお兄ちゃんは特に気にしていないようだった。
「エリーお姉ちゃん、今日ずっとニコニコしてどうしたの?」
「えへへ、昨日ね、シータからペンダントをもらったの!今の私ならなんでも立ち向かえる気がするよ!!」
そう言ってペンダントを見せてくれた。
「わー!キレー!!」
「ねー!きれいでしょー!!えへへへ」
蜂蜜色の宝石に、白いお花が閉じ込められていてとてもキラキラしている。
とてもきれい、だけど。
「んん?」
僕は首を傾げた。
名前が出てこない、どこかで見たことのあるお花。そして金色の宝石。
「シータお兄ちゃん、このお花は生花なの?保存状態良すぎない?」
「そうだが?でも保存加工を施してはあったけど確かにずっと保ってるなぁ。加工した人が
凄かったのかもな」
ふーんと、ペンダントをもう一度見る。
「何かすごいものだった覚えがあるけど気のせいかな」
まぁ、エリーお姉ちゃんが大丈夫そうならいっか!
とヴィラは気にすることをやめた。
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〜フィクスト学院〜
学院長室
「今日はサイハテの子たちが見学に来るそうよ」
逆光であまり顔は見えないが、椅子に座った人物から老年の女性の声がする。
反対側に立っていた二人の男が渋い顔をする。
「……何をしでかすかわからないので準備は入念にしてあります」
生真面目そうな顔の痩せ型の男は眉間に皺を寄せながら言った。
「あら?サイハテの村長ちゃんからはとってもいい子達だと聞いているわ。私もサイハテの子たちに会いに行こうかしら」
男二人は複雑な表情で顔を見合わせた。
「ヴァルト先生、ガルドア先生、あなたたちの教え子が来るそうよ。嬉しくないの?」
「……問題だらけでしたから」
鎧を着た男が苦々しげに呟く。
「ガルドア先生?それはあの子たちに問題があったと?それとも貴方たちに問題が?」
「それは……」
言葉を濁す二人に学院長はため息をついて、立って窓の外を見る。
走り回り、木剣を振り回す剣術科生徒たち。
「今日、剣術科はあのイベントだったわね」
「直ちに中止に、「いいえ、必ず開催続行しなさい。そして通達を」
学院長は振り返る。
「木剣を持つ者は全員参加対象に。それが外部からのお客様だったとしても」
「それは……」
青ざめる成人男性二人。
にっこり笑う学院長。
「こてんぱんにやられてきなさい♡」
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学院の前に辿り着くと、エリーは元気にジャジャーンと言った。
「こちらフィクスト学院の正門となりまーす。何百年も前からある由緒正しき正門。保存魔法と防御魔法、制限魔法がかけられておりまーす」
元気は元気だが、無表情。
そして目が、死んでいる。
「制限魔法ってなに?」
なんとなく慣れたのかディナがエリーに聞いた。
「制限魔法っていうのは、遅刻した人や関係者以外が触ると、ビリビリーって雷が落ちる魔術がかけられているの」
「防犯的な?」
「それもあるけどねーある事象に対して発動する魔術かしら。説明難しいわ。まぁ難しいことは追々、教えてあげる。とりあえず遅刻しちゃだめってことよ」
「抜け道あるけどな」
私も使ったことあるけど!悪い事教えちゃダメでしょ!とシータに怒っていると、門から誰かがやって来た。
「「こんにちは。サイハテ村からいらっしゃった方でしょうか」」
黒い制服に身を包んだ木剣を持った男の子と前髪にヘアピンをした女の子が立っていた。
顔がそっくりだが双子だろうか。
「「申し遅れました、治癒科のセラーとラルーと申します。本日は私たちが学院の案内を致します」」
二人が同時に喋るのでどちらがセラーなのかラルーなのかわからない。
えっと、と言葉を濁していると、ジェスチャーと共に男の子がセラー、女の子がラルーともう一度紹介してもらった。
「初めまして、エリーです。隣がシータ、そしてディナとヴィラです。今日はよろしくお願いします」
「「こちらこそよろしくお願いいたします。有名なサイハテの方々を案内できて光栄です。治癒科でもエリー先輩とシータ先輩はとっても有名なんですよ」」
その有名は一体、良い意味なのか悪い意味でなのか。
そして先程からピッタリ同時に喋るから脳内が混乱する。
すごいなこの双子。
「治癒科って何するの?」
「「治癒科は、怪我や病気を治すための医療を学びます。魔術が使えなくても魔導具や医療技術を使い、誰でも学ぶ事ができる科となります。上級生になると剣術科や魔術科に治療を施すこともあります」」
「「治癒科にはすっごいお世話になってます、大変ご迷惑をおかけしました」」
エリーとシータは思わず頭を下げた。
エリーは魔術の研究で失敗しまくって怪我を、シータは威圧や授業で相手をボコボコにして治癒科に任せていたところがあったので、ごめんなさい、と力無く呟く。
「「いえ、頭を上げてください。治癒科は全然、喜んでいました。むしろ感謝しています」」
双子たちの言葉に全員思わず目が点になる。
「「エリー先輩はあらゆる属性や研究で怪我をされるので、その対処法を学ぶことができたと。シータ先輩は数がとても多く、こちらとしても沢山の経験を積むことができたと、治癒科の先輩方には大絶賛でした」」
それはよかったです?と疑問符がつくのだが。
そういえば卒業する時期に近づくにつれ、治癒科の後輩がやけにこちらを見て号泣していた気がする。
エリー先輩とシータ先輩がいなくなったら私たちは一体どうすれば!とよくわからない言葉を発していた気がする。
「「現在もエリー先輩とシータ先輩はとても人気がありまして、本日の治癒科の出席率は出席率は100%となっております。もちろん案内役をやりたいと名乗り出た者は大勢いました。まぁ、私たちが生徒会権限で勝ち取りましたが」」
双子たちはふ、ふ、ふ、と黒い笑みを浮かべる。
治癒科からの謎の好印象が怖い。
「「すみません、嬉しすぎてつい話し込んでしまいましたね。どうぞ、中へ」」
双子たちは我に返って門の中へと案内する。
最後にシータが入るところでセラーがそうだ、と持っていた木剣を渡す。
「え?」
「「本日、学院長からシータ先輩には木剣を渡すようにと言付かっております」」




