真実の先に
翌朝、美結はいつもより早く目を覚ました。
理由は一つだった。
早朝家を出ると、近所の陸の家の前で待っていた。
まだ冬明け前の季節で、防寒していても手足が凍えて少し辛かった。
「陸、おはよう。」
「どうしたの?美結。」
「話がしたくて。一緒に登校しよう。」
昨日の今日で行動するなんて、自分らしくないと美結は思った。
しかし昨日の件で、とりあえず向き合うべきなのは一番近くにいる異性なのだと思っていた。
美結は緊張しながらも、二人で歩いて登校しながら昨晩母から聞いた話を陸に告げた。
陸は苦笑しながら、首を縦に振り聞いていた。
「そっか。聞いちゃったか。ごめんね、ずっと黙ってて。恥ずかしかったんだ。誘惑したのは俺のお父さんなんだ。でも俺の家でも何事もなかったのかのように夫婦関係を築いていて、俺は本当は明人に会わせる顔がない。美結と明人が別れちゃったのも、俺のせいだって言われて当然なんだ。」
陸はそう言いながら俯き、声が震えていた。
そんな陸に美結は歩く足を止め、振り向いた陸の体を優しく抱きしめた。
「私たちが別れちゃったのは陸のせいじゃない。それだけ早く伝えたかった。今まで辛かったよね。」
「美結…。」
公然のど真ん中で抱き合ったこともあり、陸はそっと美結の身体を離した。
そして向き合い美結と目を合わせて、告げたのだった。
「美結、俺と別れてほしい。」
「陸…。」
「俺は二人に幸せになってほしいよ。」
陸の目には涙が溜まっていた。
想定外の台詞に、美結は返す言葉が見つからなかった。
昨日まで順調に付き合っていたカップルに突然相手から別れを告げられるなんて、普通は拒絶することだろう。
しかし美結も自分の本当の気持ちに抗えなかった。
「ごめんなさい。陸に言わせてしまって。本当に私は最後まで彼女失格。」
美結も、今日で二人の関係に終止符を打つつもりだったのだ。
陸には天国から地獄に落とすような展開になってしまったことを美結は悔いたが、一日でも長く一緒にいればより深く傷つけてしまうことが今は怖かった。
「私ねあんな単純で感情的で、会ったら喧嘩越しになる明人のことまだ忘れられないの。ただの未練だと思っていたけど、どうしてもどうしても消えないの。本当にごめんなさい。」
美結は心の内を素直に吐露し、陸に深々と頭を下げた。
許してもらえるとは全く思っていない。
優柔不断な自分が大嫌いで仕方なく、陸から絶交されることも覚悟していた。
しかし陸はいつまでも美結に暖かく優しかった。
美結の頭を優しく撫でると、落ち着いた口調で言った。
「喧嘩なんかもうしないで、ちゃんと明人と向き合うんだよ。俺は親友たちの幸せを誰よりも応援してるから。じゃあごめん、俺は先に行くね。」
陸は最後まで笑顔を絶やさなかった。
そう言うとすぐに走って、後ろを振り返らずに美結に手を振った。
美結は堪えていた涙が弾けて、その場に蹲み込み嗚咽した。
今泣いていいのは、自分ではない。
そんなことは重々承知なのに、涙が止まらなかった。
それは大切に想っていた陸と別れてしまった現実に対する自分の心の悲鳴のように感じた。




