影のヒーロー
「おーい、引きこもり美結さん。ヒーローの登場だよー!」
クリスマスイブから早一週間。
美結はクリスマスイブから、何も手がつかず、家に引き込もっていた。
いつの間にか今年も終わろうとしていて、そんな美結の下に来たのは工だった。
「妹から聞いたの?今は会いたくない。」
「いいから。なんかあったんだろ。ここでいいから話せよ。」
工は美結と付き合ってた頃から気の合う紗夜から、クリスマスイブから姉の様子がおかしいことを聞いていた。
海や日向など親友達もそれを聞いて美結の家に訪れたが会うのを断り、そのまま遠方の親戚の家に帰省してしまった。
工は美結の部屋の前に蹲み込み、ドアに頭をうな垂れた。
「美結が元気なくて、皆困ってるよー。俺の予想だと、明人関連だろ?」
「なんで…分かるの。」
「お前の一番の親友だからだよ。」
工がそう言うといきなりドアが開き、目を腫らしてパジャマ姿の美結が姿を現した。
そして部屋に招くと、テーブルを間に二人は向かい合った。
「明人が千花ちゃんと別れて、クリスマスイブに告白された。」
「は?あいつまじぶっ殺す。」
珍しく感情的に立ち上がって両手の力を込めた工を、美結は止めた。
そしてまた工はあぐらをかいて座ると、美結は陸とのデートを含めクリスマスイブにあったことを話した。
工は明人の身勝手な言動に舌打ちし、不機嫌さを激化させた。
「明人やるな。俺でもそんなこと言えないのに。でもそんなどん底なほど落ち込むなよ。」
「だって…陸を傷付けちゃって、明人にも理解不能なこと言われて…心がついていかないよ。」
「まずさ、陸なら分かってくれるだろ?美結の心の準備ができてなかったって。それとも、明人の告白に心変わりした?」
工の指摘に、美結は俯き唇を噛み返答できなかった。
心乱されてなかなか立ち直れない理由を、最早自分でもわからなかった。
「俺は今すぐにでも明人をぶち殺してやりたいけど。でもそれより美結に元気になって欲しい。なんか甘いお菓子でも買ってこようか?それとも買い物にでも行く?」
「工…ありがとう。」
美結はつい優しく励ます工の胸に飛び込んでしまった。
工は戸惑いながらも拒絶できず、美結の頭を優しく撫でた。
「さぁ、まず陸に連絡してやれよ。心配してるぞ?」
「なんで工が知ってるの?」
「わざわざ友達伝いで俺に連絡来たからさ。」
美結は陸との連絡も遮断していた。
陸はクリスマスイブの一件もあってが強引に家まで来ることはなかった。
しかし裏では彼女の元カレに連絡を取るほど心配しているとは、美結は陸へ申し訳なさの気持ちでいっぱいになった。
「そうだね。メールしてみる。」
そう言って早速美結が謝罪の連絡すると、陸からすぐに返信が来た。
陸はいきなり触れようとしたことを後悔しており、会って謝りたいとのことだった。
「今から会ってくる。」
「ちゃんと仲直りしてくるんだぞ。」
美結はそう言って覚悟を決め立ち上がると、工も隣に立ち頭をポンポンと叩いた。
まるで子供扱いされて照れてしまった美結は、ふと神妙な顔付きをして言った。
「ねぇ、工。ひとつ聞いてもいい?」
「ん?」
「まだ答えって出さなくてもいいかなぁ?」
美結は優柔不断で大切な人を振り回してることを自覚していた。
しかしまだ自分の気持ちを明らかにできなかった。
「それは陸に聞いてこい。お前の彼氏なんだから。頼ってやれ。」
「だよね…。」
「でも俺は美結がどんな選択をしても、味方だからさ。頼ってな。」
工はそう言うと、颯爽と美結の下からいなくなってしまった。
美結は目頭が熱くなり、赤くなった両頬を押さえてその場に蹲み込んだ。
「工、ごめんね。ありがとう。」
美結は工にもう一生頭が上がらないと思った。
これから何度も何度も、感謝の気持ちを伝えようと誓った。
いつも絶望から手を伸ばし助けてくれる影のヒーローに。




