苦渋の決断
早速週明けに、美結は花火大会で起きた出来事を友人達に話した。
日向や海は陸からの告白は想定内だったと言い、陸と付き合うことを強く推した。
しかし返事に非常に困っている美結は、勿論そんなことが起きて嫌でしかない工に相談するのだった。
「美結はどうしたいの?」
夜のファーストフード店に呼ばれた工は率直に美結に言うのだった。
それは自分でも分からないことで、美結は頭を抱えて黙っていた。
「まだ好きなんだろ?明人のこと。」
「ん…そんな。」
工の一言はまさに的中していた。
例え目の前でイチャイチャしている明人達カップルの姿を見ても、自分の明人に対する思いは消えることはなかった。
ただそれが恋心かただの未練なのかどうか、それも自分ではよく分からなかった。
美結はそんな自分の頭では処理切れないゴチャゴチャな気持ちを、辿々しく工に告げた。
工はそんな美結の誰にも言えない本音を最後まで頷きながら聞いてくれた。
そして美結の気持ちが落ち着くと、工も素直な気持ちを美結に吐いたのである。
「中3の時、俺が付き合おうって言った時は美結すぐ俺を振ったよな。それから俺が説得してなんとか付き合ったけど、無理やり付き合わせた美結には悪いことをしたと思ってる。でも今回はさ、美結は陸の返事を濁した。それは少しでも陸を想う気持ちがあるってことかなって俺は思ってた。悔しいけど。」
「陸と付き合う…かぁ。」
美結と陸とは幼い頃から、明人と付き合ってた時もずっと、当たり前のように穏やかで心地よい関係が続いてきた。
それが明人を想っていた時のような激しい恋心とは違うものである気はする。
しかし陸の気持ちに応え付き合うことを拒み、陸を失うのは一番最悪な事だと思う。
美結はふと陸と付き合う未来を想像した。
きっと今とそんなに変わらず穏やかな付き合いで、悪いものではないだろうとは思う。
「うーん、悩みすぎてもっと馬鹿になりそう。でも、工と付き合ってたことは私は後悔はしてないよ。すごく楽しかったし、今でもこうやって一番そばにいて話聞いてくれる関係になれたんだし本当に感謝してる。」
もちろん工と付き合っていた時も楽しかった。
ただ明人への未練が消えずに、工を傷付けてしまう感じで別れてしまったという過去もある。
美結がそう言うと、珍しく工は顔を赤らめて俯いて言った。
「なんだよ、感謝って。それは俺の方だよ。別れても仲良くしてくれてありがとうな。俺は今の関係で満足だから、悩まなくていいからな。」
「悩む?何を?」
「…やっぱもう友達やめようかな。」
鈍感な美結に一瞬で幻滅した工がそう言うと、美結は頬を膨らませて顔を横に振った。
「嘘だよ。」
「やったー!」
「あれー、お前らってより戻してんの?」
聞き慣れた声の相手に、二人は恐る恐る振り向いた。
なんとそこには千花を連れた明人の姿があった。
美結は体が熱くなるのを感じ、工はこの場で最悪の相手の出現に不機嫌そうに言葉を返した。
「お前に関係なくない?」
「ちょっと工…。」
「確かに関係ないな。でもさ、別れてからも仲良いなってなんかおかしくね?」
「お前にだけは言われたくないな。」
そう言うと工は立ち上がり、明人に身を乗り出そうとするのを美結は自制した。
美結は明人の言葉に心乱され、目頭が熱くなっていた。
「そんなんじゃ美結に嫌われるぞー。じゃーな。」
明人はそう工を挑発して、千花の手を握って去って行った。
工は息を荒くして、再び席に座った。
「俺まじあいつ嫌いだわ。美結の気持ちも分かれよ。てかあんな奴のどこがいい…」
「工…。」
美結の両目からはまた大粒の涙が溢れていた。
工は取り乱してしまった自分を自制しそれ以上話すのをやめ、美結の頭を優しく撫でた。
「俺じゃなくていいから、陸と付き合ってみたら。俺は美結に幸せになってもらいたいよ。」
「うん、なんかちょっと気持ちの整理がついたかも。ありがとう、工。」
美結はそう言うと、テーブルに伏せて涙を流していた。
明人を想う独りよがりな気持ちは、自分や周りを傷付け辛くするばかりなことに気付いた。
そして美結は明くる日、陸に迷っている気持ちも全て告げ、その気持ちを受け入れると言ってくれた陸と付き合うこととなった。
「俺は工に頭が上がらないな。」
陸は自分がいない時に美結を守ってくれる工に、深く感謝した。




