↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境子爵令嬢は平穏に暮らしたい ~剣と魔法の才能を隠して、普通の学院生活を送るはずでした~  作者: EA
第一部「王立学院編」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
80/119

第72話 一枚の地図と七人の約束

放課後、私たちは図書室の奥にある共同学習卓を占領した。


 大きな地図を広げたのはフィオナだ。色の違う糸を三本、机の上に並べる。


「演習場は東の訓練庭。運ぶのは模擬薬箱が二つと水袋。目的地まで三つの経路があるの」

「どうしてそんなに詳しいの?」

「商会の荷運びと似ているから。道を選ぶのは得意よ」


 フィオナは胸を張った。隣でミレイユが布見本を広げる。


「荷物を包む布なら、雨に強いものを用意できるわ。ただし、見た目だけで選ばないこと。濡れたら重くなる布もあるから」

「二人が同じ机にいると、商談みたい」と私。

「実際、少し商談よ」とミレイユが笑う。「でも今日は利益より、皆が無事に帰ることが先」


 ノエルは演習規則を読み上げた。模擬の敵は教師が操る木製標的と低威力の術式。回復役は後衛に置く。勝敗ではなく、荷物と人員の状態で評価される。


「《聖晶》を使うなら、盾を出す位置を決めておきたいです」とセレスティーヌが言った。「急に指示されると、間に合わないかもしれません」


 その慎重な言葉に、私は胸が温かくなった。以前の彼女なら『私には無理です』と口にしていたかもしれない。


「じゃあ、合図を決めよう」とアレクシスが椅子を引く。「俺が前で受ける。衝撃が強いときは《金剛》だけじゃ危ない。セレスティーヌの盾で方向を変えてくれたら助かる」

「五秒しか持ちません」

「五秒もある」


 彼は明るく言い切った。「俺が三秒で位置を変えれば、残り二秒は皆の退路になる」


 セレスティーヌは少し驚いたように瞬きをした。


 ルシアンが地図の中央に鉛筆を置いた。「ただ、魔力を使い切る計画にはしない方がいい。僕は風で視界を整えられるけど、演習場の設備を壊すような出力は使わない」


「私も水と風で補助する」と私は言う。「前へ出るのは必要なときだけ」

「そこが一番の約束だね」とルシアン。

「信用してない?」

「信用してる。だから、君が約束を守れるように確認してるんだ」


 まっすぐな言い方に、私は返事を探してしまった。


 北の森では、家族がきっとそれぞれの役割を果たしている。私だけが全部を背負おうとするのは、皆の力を信じていないのと同じなのかもしれない。


「分かった。勝手に突っ走らない」


 フィオナが赤い糸を地図に置いた。「では、その約束を地図にも書いておこうかしら」


「そこまでしなくても!」

「記録は大事よ」とノエルが小声で言う。



 地図に糸を置き終えたところで、ルシアンが木製の小さな駒を三つ並べた。


「道順だけじゃなく、敵役がここから来たらどうするか決めよう」

「敵役?」

「演習用の移動標的だよ。人を相手にするより、動きを読みづらい」


 私が赤い糸の端に指を置くと、アレクシスが盾の位置を示した。


「ここなら二人分の幅を塞げる。けど、背後へ回られたら弱い」

「そのときは私が回る」と私は答えた。


「エレナが回ると荷車が空く」とルシアン。


 私は言い返しかけて、地図を見直した。彼の指が示したのは、荷車の進む線と、私が追いかけようとした駒の線が離れていく場所だった。


「……じゃあ、合図が来るまで追わない」

「僕は風で標的の速度を落とす。倒すのはそれから」


 フィオナが糸を結び直し、ノエルが退避場所に印をつける。机の上の小さな戦いなのに、剣を振るより頭を使った。


 全員が笑う中、セレスティーヌも筆を取った。地図の端に小さく『危険を見たら、まず知らせる』と書く。


 私はその文字を見つめた。派手な魔法より、きっとこういう約束の方が難しい。そして、ずっと大切だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。