↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境子爵令嬢は平穏に暮らしたい ~剣と魔法の才能を隠して、普通の学院生活を送るはずでした~  作者: EA
第一部「王立学院編」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
36/114

第28話 三人の間合い

 事故の翌日、学院では訓練場の安全点検が行われた。


 私たちは授業の一部として、倒れた標識を安全に固定する方法を考えることになった。先生たちは、単に叱って終わらせるつもりはないらしい。


 倒れた標識の根元には、濡れた土がこびりついていた。修繕係が持ってきた縄と木杭を見ながら、アレクシスは腕を組む。


「俺が《金剛》で支えて、その間に固定すればいいんじゃないか?」

「できるけど、ずっと支え続けるのは疲れるよね」とルシアン。

「そこまで長くはかからないだろう」

「長くかからない予定でも、何か起きたら?」


 私は二人の間で標識を見上げた。大きな木板は風を受けやすく、倒れたままでは通路を塞いでしまう。私が持ち上げればすぐ済む。でも、それでは修繕の練習にならない。


「先に縄を結んで、動く範囲を決めよう。支えるのは最後の少しだけにしない?」


 トビアスが土魔法で杭の位置を示し、アレクシスが頷いた。


「それなら俺も無駄に魔力を使わずに済むな」


 全員の案を合わせると、思っていたより簡単な手順になった。強い力は便利だ。でも、強い力だけで済ませない方が、もっと安全なこともある。


「同じ事故を防ぐために、何が必要か」


 ガルド先生の問いに、アレクシスが勢いよく手を挙げた。


「もっと重い土台です!」

「それも一案だ。ほかには?」

「風向きを見て置く場所を変える」と私。

「固定具の点検記録も必要です」とトビアス。


 先生は頷いた。


「三つとも正しい。だが、どれか一つだけでは不十分だ」


 実習では、私たち三人が再び組むことになった。アレクシスは盾を持ち、トビアスは土の杭を作る。私は風の流れを観察して配置を決める。


 最初の試行では、盾が大きすぎて通路を塞いだ。


「これじゃ、誰かが逃げるとき困るね」

「盾を小さくするか」とアレクシス。

「小さくしたら、今度は横からの衝撃に弱い」とトビアス。


 私たちは何度も配置を変えた。地味な作業だった。剣を振る方がずっと楽しい。でも、誰かを守るための準備も、剣術と同じくらい大切なのだと少しずつ分かってきた。


 昼過ぎ、フィオナが見学に来た。手には商会で使う荷札の見本がある。


「風が強い倉庫では、紐の結び目を二重にするの。こっちの留め方、使えるかも」

「そんな方法があるんだ」

「運ぶものを壊したら大損害だからね」


 ミレイユも加わり、目立つ色の布で危険区域を示す案を出した。ノエルは転倒した人の応急処置に必要な動線を確認する。


「みんな、いつの間に……」


 私は少し驚いた。最初は三人の課題だったのに、気づけば五人の友人たちも知恵を出してくれている。


 セレスティーヌは最後まで黙って図を見ていたが、やがて遠慮がちに口を開いた。


「小さな障壁を置くなら、人が通る側ではなく、標識が倒れる方向だけにするのはどうかしら」

「それ、いい!」


 私は身を乗り出した。


 彼女は驚いたように瞬きをする。


「聖晶で全部を守るのは無理でも、危険な一点を支えることはできるかもしれないわ」

「そうだよ。必要なところに、必要な大きさで」


 ノエルも頷いた。


 最後の試行では、標識は風を受けても倒れなかった。アレクシスの盾も退路を塞がず、トビアスの土杭は目立たない位置でしっかり支えている。


「合格だ」


 ガルド先生が短く言った。


 アレクシスは大きく息を吐いた。


「剣で勝つより、こっちの方が疲れたぞ」

「頭を使ったからね」

「エレナ、お前もだろう!」

「そうだけど!」


 笑い声が訓練場に広がった。


 片づけの途中、アレクシスが私の横に来た。


「お前、最近ちょっと変わったな」

「えっ、どこが?」

「前なら真っ先に飛び込んで、全部一人で終わらせてただろ」

「そんなこと……あったかも」


 思い当たることが多すぎて、私は言葉を濁した。アレクシスは声を立てて笑ったが、すぐ真面目な顔になる。


「でも、俺も人のことは言えない。盾が硬いからって、無茶していいわけじゃないんだよな」

「《金剛》は衝撃を全部消すわけじゃないものね」

「そう。あれ、思ったより腕に来るんだ」


 彼は肩を回してみせる。私はその仕草に、セレスティーヌが《聖晶》を維持したあと、そっと指を開閉していた姿を重ねた。


「今度、セレスティーヌにも話してみよう。盾の使い方って、似てるところがあるかもしれない」

「そうだな。……あいつ、最近よく笑うようになったよな」


 何気ない一言だった。私は頷いたが、彼が少しだけ声を柔らかくしたことには気づかなかった。


 私は初めて、強さを隠すことばかり考えていた自分に気づいた。

 力を見せないことより、どう使うかを考える方が、ずっと大事なのかもしれない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。