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辺境子爵令嬢は平穏に暮らしたい ~剣と魔法の才能を隠して、普通の学院生活を送るはずでした~  作者: EA
第一部「王立学院編」

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第20話 五人の約束と次の試験

 週末、談話室の窓辺に五つの茶杯が並んだ。


 窓辺の鉢植えには小さな白い花が咲き、レースのカーテンが風に揺れるたび、卓の上に木漏れ日のような影が落ちた。


 最初にここへ集まった日の私は、五人でお茶を飲めるだけで十分幸せだと思っていた。今は、その五人で失敗を相談し、誰かが困れば手を伸ばせることが嬉しい。


「エレナ、また考えごと?」


 ミレイユが紅茶を注ぎながら尋ねた。


「みんなと友達になれてよかったなって」


 口にしてから少し照れくさくなる。フィオナは目を丸くし、ノエルは茶杯を両手で包んだまま微笑んだ。


「そういうこと、急に言うのは反則よ」


 ミレイユが言う。


「でも、私も同じ気持ちです」


 セレスティーヌの言葉は静かだったが、以前よりずっと自然に聞こえた。


 最初のお茶会と同じ卓なのに、少しだけ景色が違って見える。フィオナは新しい菓子を持ってきて、ミレイユは練習用の手袋を五組広げた。


「これ、皆の分よ。手のひらが滑りにくいようにしたの」

「すごい! 剣も握りやすそう」

「エレナはまずお茶を飲んで」


 ミレイユが笑う。


 セレスティーヌは昨日より元気そうだった。ノエルの記録帳には、彼女の聖晶が五秒安定した日付と、板を止めたときの状況が丁寧に書かれている。


「これからは、無理に大きくする練習はしないわ」


 セレスティーヌが言った。


「まず、同じ大きさを何度でも作れるようになりたいの」

「いい目標ね」


 ノエルが微笑む。


 私は菓子を一つ取り、思いついたことを口にした。


「ねえ、皆で約束しない?」

「どんな?」とフィオナ。

「誰かが困ったら、勝手に決めつけずに話を聞く。助けてって言われたら、できることを一緒に考える」


 言いながら、ヴィクトリア様の言葉を思い出していた。


 ミレイユは少し驚いた顔をしたあと、真面目にうなずいた。


「いいと思うわ。秘密を無理に聞き出さないことも入れましょう」

「あと、失敗した人を笑わないこと」


 ノエルが小さな声で続ける。


「お菓子を独り占めしないこと!」


 フィオナが言うと、皆が笑った。


「それはエレナ向けの約束かしら」

「そんなことないよ!」


 私は慌てて二つ目の菓子から手を引っ込めた。


 セレスティーヌがゆっくり茶杯を置く。


「私からも、一つお願いしていい?」

「もちろん」

「私が自分で決めたいと言ったときは、少し待ってほしいの。皆の優しさに甘えてしまいそうだから」


 私は大きくうなずいた。


「うん。待つよ」


 彼女はほっとしたように笑った。


 その日の午後、学院の掲示板に新しい告知が貼られた。来週から、剣術と魔法の実技評価が始まるという。


「また試験……」


 私は紙を見上げた。アレクシスとの手合わせの噂がまだ残っているのに、今度は正式な評価だ。


 背後から声がした。


「エレナ、見た?」


 ルシアンだった。彼の手には訓練場の利用表がある。


「見たよ。どうしよう。目立たない方法、あるかな」

「無理に負けようとしないこと。怪我をするし、教官にも失礼だ」

「それは分かってる。でも……」

「自分の力を全部見せる必要もない。求められた課題を、丁寧にこなせばいい」


 私は少し考えた。確かに、祖父との稽古のように全力で打ち合う必要はない。


「よし。丁寧にやる!」

「その言葉、覚えておいてね」


 ルシアンは笑った。


 そこへアレクシスが走ってきた。


「聞いたか! 次の実技評価、組み合わせによってはまた手合わせできるぞ!」

「できなくていいよ!」


 私が即答すると、彼は心底残念そうな顔をした。


 夕暮れの学院には、鐘の音が長く響いていた。五人で交わした小さな約束を胸に、私は次の試験へ向かう。


 平穏な学院生活を送るはずだった。今も、その願いは変わらない。


 ただ最近は、平穏とは何も起こらないことではなく、何かあっても一緒に笑える人がいることなのかもしれない、と思い始めていた。


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