第16話 五人で決める練習計画
合同訓練の話を持ちかけると、セレスティーヌは驚いた顔をした。
放課後の小教室には、窓を開けたとたん若草の匂いが流れ込んだ。黒板には前の授業で使われた魔法陣の線がうっすら残り、長机の上にはノエルの几帳面な記録帳と、フィオナが持ってきた紐や布が並んでいる。
「練習って、何から始めるの?」
私が尋ねると、ノエルは記録帳を開いて、少し考えてから答えた。
「まず、できることと難しいことを分けたいです。盾を作る、保つ、動きながら使う。それぞれ別の技術ですから」
「全部いっぺんにやると、疲れちゃうものね」
ミレイユが頷く。
私は思わず祖父の言葉を思い出した。『強い一撃より、正しい一歩を千回だ』。剣と魔法は違うと思っていたけれど、上達の仕方には似たところがあるのかもしれない。
「私が参加しても、足手まといにならないかしら」
「参加するかどうかは、セレスティーヌが決めて」
私はヴィクトリア様に教わった言葉を思い出しながら答えた。
「でも、来てくれたら嬉しい」
セレスティーヌは少し考え、静かにうなずいた。
「……やってみたいわ」
それから五人で図書室の小卓を囲んだ。ミレイユは紙に役割を書き出し、フィオナは訓練場の利用規則を調べる。ノエルは結界の参考書を開いた。
「まず目標を決めましょう」
ミレイユが羽根ペンを持ち上げる。
「目標?」
「エレナ。剣を振る前に考えるの」
「うっ」
フィオナが笑った。
「『三人の避難役を、安全な場所へ移動させる』はどう? 相手役が妨害する。倒さなくても全員が移動できれば成功」
「それなら聖晶が役立つかもしれない」
ノエルがセレスティーヌに向き直る。
「小さな盾を一枚、五秒保つ練習から始めませんか。大きくするのはまだ先で」
「五秒……」
「できそう?」
「今は三秒ほど。けれど、やってみるわ」
私は思わず拍手した。セレスティーヌは照れくさそうに笑う。
訓練場では、ルシアンが木の板を立てていた。アレクシスは障害物の位置を確認し、ガルド教官に立ち会いを頼んでいる。
「本格的ね」
「事故を防ぐためだよ」
ルシアンは板の高さを測りながら答えた。
「僕は風で軽い布球を動かす。危険な魔法は使わない。アレクシスは盾で通路を塞ぐ役」
「俺が悪役か?」
「楽しそうだろう?」
「それはそうだな!」
二人のやり取りに、セレスティーヌが小さく笑った。
最初の練習では、彼女の結晶は四秒目にひびが入った。二度目は三秒。三度目には、そもそも形が揃わない。
「ごめんなさい……」
「謝ることじゃないよ」
私は水筒を差し出した。彼女の額には薄く汗が浮かんでいる。
ノエルが記録を見直す。
「疲れると、結晶の端に魔力が偏るみたいです。休憩しましょう」
「もう少しだけ、できると思うの」
セレスティーヌの声には焦りがあった。
「私、皆の期待に応えたくて」
私は首を振った。
「期待に応えなくていいよ。私たちは一緒に練習したいだけだから」
彼女は少しだけ目を伏せた。
「そういう言い方をされたの、久しぶりだわ」
休憩のあと、結晶は五秒保った。誰も大きな声を上げなかった。ただ、五人で顔を見合わせて、そっと笑った。
帰り際、フィオナが次回の予定を読み上げる。
「次は避難役も動いてみましょう。道具は私が準備するわ」
「衣装は?」とミレイユ。
「普通の訓練着でいいと思うけど」
「動きやすさも大事な設計なのよ」
私は二人の言い合いを聞きながら、セレスティーヌの歩幅が少し大きくなったことに気付いた。




