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第9話 絡まれたリナ

川下の街に着いて、二日目。


 俺とリナは、朝から市場へ向かっていた。


「今日は人が多いね」


「はい。川から荷物が運ばれてくる日ですので、いつもより賑わっているのでしょう」


 大通りには、商人や旅人が行き交っている。


 俺は並んだ露店を眺めながら歩いていた。


「リナ、あれ何?」


「果物ですね。よろしければ買ってまいりましょうか?」


「うん。二つ欲しい」


「かしこまりました」


 リナが店へ向かう。


 俺はその場で待っていた。


 すると、近くにいた男たちの視線がリナへ向いた。


「なあ、あの子すげえ可愛くないか?」


「声かけてみようぜ」


 俺は何となく嫌な予感がした。


 案の定、男の一人がリナへ近づいていく。


「お姉さん」


「はい?」


 リナが振り返る。


「一人? よかったら俺たちと遊びに行かない?」


「申し訳ありません。私は主人にお仕えしておりますので」


「主人って、あの子供?」


 男が俺を見る。


「はい」


「へえ。じゃあ、ちょっとくらい主人に断ってもらえばいいじゃん」


「お断りいたします」


 リナは穏やかな笑顔のまま答えた。


「そんなに急いで断るなよ」


「申し訳ありませんが、お誘いを受けるつもりはございません」


「つれないなあ」


 別の男がリナの前へ回り込む。


「少しくらい付き合ってくれたっていいだろ?」


「お断りします」


 リナは一歩下がる。


 俺は二人の間へ入った。


「リナ、行こう」


「はい、レオン様」


 俺たちがその場を離れようとすると、男が俺の肩を掴んだ。


「待てよ」


「離して」


「生意気なガキだな」


 俺は男の手を振り払う。


「俺たちは帰る」


「そう簡単に行かせるかよ」


 男がリナへ手を伸ばす。


 その瞬間だった。


 リナの姿が俺の視界から一瞬消えた。


「え?」


 次の瞬間、リナは男の横に立っていた。


 伸ばされた腕を避け、男の手首を軽く押さえている。


「おやめください」


 声は穏やかだった。


 けれど、その目には明らかな警戒が浮かんでいる。


「なんだ、お前……!」


 男が腕を振りほどこうとする。


 リナはそれより早く手を離し、俺の前へ戻ってきた。


「レオン様、お下がりください」


「リナ……」


 俺は初めて見た。


 リナが戦う姿を。


 普段は俺の身の回りの世話をしてくれて、礼儀正しく笑っている。


 でも、彼女の役職は――アサシン。


 その意味を、俺は今初めて実感した。


「お前、何者だ?」


「レオン様にお仕えしている者です」


「ふざけんな!」


 男が怒鳴りながら近づいてくる。


 その瞬間、俺は《チャット》を使おうとした。


 ――だが。


《対象は現在、使用者と敵対しています》


《チャットを開始できません》


「……!」


 使えない。


 敵対している相手には、本当に使えない。


 俺が戸惑っている間にも、男たちはこちらへ近づいてくる。


「レオン様」


 リナが俺の前に立った。


「ここは私にお任せください」


「でも……」


「大丈夫です」


 リナは短く答えた。


「レオン様には、指一本触れさせません」


 男がリナへ飛びかかる。


 リナは横へ身をかわした。


 そして男の腕を取ると、勢いを利用して地面へ倒した。


「ぐっ……!」


 周囲からざわめきが起こる。


「おい、こいつアサシンじゃないか?」


「アサシンだと?」


 男たちの顔色が変わる。


 リナは構えを解かない。


「これ以上続けるのであれば、こちらも相応の対応をいたします」


 その言葉に、男たちは舌打ちした。


「覚えてろよ!」


 そう言い残して、三人は人混みの中へ逃げていった。


 リナは男たちが見えなくなったのを確認してから、こちらを振り返る。


「レオン様、お怪我はありませんか?」


「うん。大丈夫」


「本当ですか?」


「本当だよ」


 リナは俺の肩や腕を確認する。


「……よかった」


「リナこそ、大丈夫?」


「私は問題ありません」


「すごかったね」


「……見ていらしたのですか?」


「うん」


 リナは少し恥ずかしそうに目を逸らした。


「お恥ずかしいところをお見せしました」


「なんで?」


「私は本来、レオン様のお世話をする立場ですから」


「でも、俺を守ってくれた」


「それは当然です」


 リナは微笑む。


「私はレオン様のお側にいるために、ここにおりますので」


「ありがとう、リナ」


「……はい」


 リナの頬が少し赤くなる。


「では、宿へ戻りましょうか」


「うん」


 歩き出してから、俺はふと思った。


 俺は無職。


 リナはアサシン。


 俺は《チャット》を持っている。


 リナは戦う力を持っている。


 俺たちは、それぞれ違うものを持っている。


 なら、俺も自分にできることを増やしていかなければならない。


 宿へ戻った俺は、改めて自分とリナのステータスを確認した。


【レオン・アストレア】


年齢:10歳


役職:無職


筋力:18


耐久:16


敏捷:21


魔力:24


精神力:30


スキル


《チャット》


称号


《アストレア家の嫡男》


《貴族》


【リナ】


年齢:16歳


役職:アサシン


筋力:24


耐久:22


敏捷:31


魔力:18


精神力:38


スキル


《短剣術》


《隠密》


《気配察知》


《暗殺術》


《家事》


《料理》


《礼儀作法》


 リナのステータスを見て、改めて思う。


「リナって、かなり強いんだな」


「そうでしょうか?」


「うん」


「私はレオン様のお側にいるために必要なことを覚えてきただけです」


「それでもすごいよ」


「……ありがとうございます」


 リナは嬉しそうに微笑んだ。


 俺は窓の外を見る。


 まだ旅は始まったばかり。


 俺自身も、もっと色々なことを身につけなければならない。


「よし」


「何か決められましたか?」


「俺も強くなる」


「はい」


 リナは静かに頷いた。


「それでは、私も今まで以上にお力になれるよう努めます」


「うん。一緒に頑張ろう」


「はい、レオン様」

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