第10話 無職の冒険者
川下の街に来て、三日目。
俺はリナと一緒に冒険者ギルドへ向かっていた。
「本当に登録なさるのですか?」
「うん。旅をするなら、冒険者になった方が色々と便利そうだから」
「確かにそうですね」
ギルドの扉を開く。
中には大勢の冒険者がいた。
剣を腰に下げた男。
杖を持った魔法使い。
大きな荷物を背負った商人らしき人物。
様々な人間が行き交っている。
「今日はどうされました?」
受付に座っていた女性がこちらを見る。
「冒険者登録でしょうか?」
「はい」
「お名前をお願いします」
「レオン・アストレアです」
受付嬢の手が止まった。
「……アストレア?」
「はい」
「失礼ですが、貴族家の方でしょうか?」
「そうです」
「承知しました。それでは役職を確認させていただきます」
俺は少しだけ緊張した。
「無職です」
「……無職、ですね」
受付嬢が確認するように口にする。
「はい」
その言葉がギルド内に響いた。
周囲の何人かがこちらを見る。
「今、無職って言ったか?」
「貴族なのに?」
「アストレア家って言ってなかったか?」
小さなざわめきが起こる。
俺は気にせず登録を続けた。
「では、こちらに手を置いてください」
台の上に透明な板が置かれる。
手を置くと、淡い光が浮かび上がった。
「確認します」
受付嬢が表示を確認する。
「筋力、耐久、敏捷、魔力、精神力……」
そして最後に、
「スキルは《チャット》ですね」
「はい」
「珍しいスキルです。私には詳細が分かりません」
「そうなんですか」
「はい」
受付嬢は登録用紙へ記入する。
「以上で登録完了です」
冒険者証を渡された。
「ありがとうございます」
俺はカードを受け取った。
そのままリナとギルドを出ようとする。
「おい」
背後から声がした。
俺は振り返る。
三人の男がこちらへ近づいてきていた。
「お前、本当に無職なのか?」
「そうだけど」
「貴族様なのに無職とは、随分と珍しいな」
「そうかな」
「しかもスキルが《チャット》?」
男たちが笑う。
「何だそれ。戦えんのか?」
「さあ」
「さあ、じゃねえよ」
一人が俺の前に立つ。
「冒険者を舐めてんのか?」
「別に舐めてないけど」
「じゃあ、その無職が何しに来たんだ?」
俺は男を見る。
「依頼を受けるためだよ」
「無職が?」
「そう」
男が鼻で笑う。
「面白えな」
リナが俺の横へ立つ。
「レオン様、参りましょう」
「うん」
俺たちが歩き出そうとすると、男が道を塞ぐ。
「待てよ」
「何?」
「無職の貴族様がどれくらいのもんか、ちょっと見せてもらおうじゃねえか」
ギルド内の視線が集まってくる。
俺は男を見上げた。
さっきまでの受付で感じた視線とは違う。
これは明確な敵意だ。
そして――。
頭の中に、あの文字が浮かぶ。
《対象は使用者と敵対しています》
俺は《チャット》を使えないことを理解した。
リナも静かに一歩前へ出る。
「レオン様に何か御用でしょうか?」
男はリナを見る。
「お前は黙ってろ」
「……」
リナの表情から笑みが消えた。
俺はその横顔を見て、少しだけ息を呑む。
この状況。
昨日のこととは違う。
今度は、俺自身が絡まれている。
俺はゆっくりと一歩前へ出た。




