42話
石碑の周囲を調べていく。
だが、これといったものは見つからない。
「何もありませんね」
「ああ」
地面にも、周囲の木にも、目立った痕跡はない。
狼の足跡も見つからない。
「ここで引き返したのか?」
「そうかもしれません」
俺は石碑をもう一度見る。
古びた石。
刻まれている文字も、今は普通に読める。
さっき見えたものが何だったのかは分からない。
でも、確かに俺には見えた。
《認証――》
あれは何だったんだ?
俺はしばらく考えた。
そして、ふと思いつく。
「……チャット」
いつものように意識する。
頭の中に見慣れた感覚が生まれる。
俺は目の前の石碑に意識を向けた。
――接続対象を確認。
そんな感覚があった。
だが、いつものように相手の情報が浮かんでくるわけではない。
「……駄目か」
「何か分かりましたか?」
「いや。普通の相手とは違うみたいだ」
石碑には意思がない。
少なくとも、人や魔物のように会話できる存在ではない。
なら、さっきの反応は何だったんだ?
俺は石碑から手を離した。
その瞬間。
――ピッ。
また音がした。
「……!」
今回ははっきり聞こえた。
同時に、頭の中へ短い文字が浮かぶ。
《接続条件を確認》
すぐに消えた。
「今のは……」
「レオン様?」
「リナ」
「はい」
「少し待ってくれ」
俺はもう一度、石碑に手を触れた。
何も起こらない。
もう一度。
やはり何もない。
「……一瞬だけだった」
何だったのかは分からない。
ただ、俺の《チャット》が何かに反応した。
それだけは確かだった。
俺は石碑から離れる。
「今日はここまでにしよう」
「戻りますか?」
「ああ」
これ以上ここにいても、今は何も分からない。
それに、森の奥にはまだ何かある。
昨日の地下通路。
今日の石碑。
そして、あの足跡。
全部を一度に調べようとするのは危険だ。
街へ戻る途中、リナが口を開いた。
「レオン様」
「ん?」
「先ほどの石碑ですが」
「ああ」
「何か感じていましたか?」
俺は少し考える。
「……俺の《チャット》が反応した」
「《チャット》が?」
「ああ。でも、どういう意味なのかは分からない」
リナは黙って考えている。
「では、あの石碑はレオン様の能力と関係があるのでしょうか」
「可能性はある」
俺は空を見上げた。
森の木々の隙間から、夕方の光が差し込んでいる。
「でも、まだ決めつけるのは早い」
「はい」
街へ戻る。
今日は何も解決していない。
それでも、昨日より一歩進んだ。
行方不明者たちが向かっていた場所。
地下の隠し通路。
黒い石。
そして、石碑。
少しずつ、点が増えている。
あとは、それをどう繋げるかだ。
宿に戻ると、俺は部屋に入ってすぐに黒い石を取り出した。
机の上に置く。
石碑で起きたことを思い出す。
「……接続条件を確認、か」
俺は呟いた。
すると。
――ピッ。
また音が鳴った。
「え?」
今度は黒い石からではない。
俺の目の前。
何もない空間に、一瞬だけ淡い光が浮かんだ。
文字が一行だけ現れる。
《条件未達》
そして、消えた。
「……」
俺はしばらく黙っていた。
AIに聞けば何か分かるかもしれない。
そう思った。
だが、今すぐ聞くのはやめた。
まだ情報が少なすぎる。
もう少し調べてからのほうがいい。
俺は黒い石をしまった。
今まで知らなかったものが、少しずつ見えてきている。
それが何なのか。
まだ答えは出ない。
ただ一つだけ分かる。
この森で起きている事件は、単なる冒険者の失踪事件ではない。
俺はそう確信し始めていた。




