37話 建物
翌日の夜。
俺たちは、昨日と同じように南門の近くで待機していた。
昨日と違うのは、今日は森へ入ることを前提に準備していることだ。
装備を確認し、必要なものも揃えてきた。
「そろそろ時間ですね」
「ああ」
南門を眺める。
昨日と同じ時間帯。
街を出ていく人間は少ない。
それでも、何人かの冒険者が門を通っていく。
俺は一人ずつ確認していた。
そして――。
「来ました」
リナの声がした。
昨日と同じだ。
一人の冒険者が南門へ向かって歩いている。
服装も普通。
特に急いでいる様子もない。
男は門番に声をかけ、そのまま門を出ていく。
そして昨日と同じように、南へ向かって歩き始めた。
「追うぞ」
「はい」
俺たちは距離を取って後を追った。
昨日と同じ道。
昨日と同じ森。
男は迷うことなく森へ入っていく。
俺たちも森へ入った。
昨日よりも慎重に進む。
しばらくすると、前方に男の姿が見えてきた。
男は立ち止まっている。
その先には、昨日見た焚き火があった。
「またいるな」
「はい」
焚き火の周りには、すでに数人の冒険者が集まっている。
昨日と同じ場所。
だが、人数は昨日より多かった。
「……何人いる?」
「七人です」
「増えてるな」
俺たちは木の陰から様子を見る。
新しく来た男が焚き火の近くへ座った。
すると、一人の男が声をかけた。
「今日も来たか」
「ああ」
「最近、よく来るな」
「……呼ばれた気がしたんだ」
「呼ばれた?」
男は少し考える。
「誰に?」
「分からない」
俺は眉をひそめた。
昨日も似たような話を聞いた。
自分でも理由が分からないまま、夜に森へ来ている。
「それで?」
「それでって?」
「何か見つかったか?」
「まだだ」
「そうか」
会話が途切れる。
俺は耳を澄ませる。
昨日聞いた「人数が減っている」という言葉も気になる。
すると、別の男が口を開いた。
「そろそろ始めるぞ」
「まだ全員じゃない」
「今日は十分だ」
「本当に?」
「ああ」
男が立ち上がる。
「ここから先は、いつも通りだ」
その言葉と同時に、焚き火の周りにいた冒険者たちが一斉に立ち上がった。
「移動するぞ」
七人が歩き始める。
森のさらに奥へ。
「どうする?」
俺が小声で聞く。
「追います」
「だな」
俺たちも後を追った。
今度は昨日より距離を取る。
森の中を進むこと十数分。
やがて、木々の間から古い建物が見えてきた。
「……建物?」
森の中に、石造りの小さな建物が建っている。
かなり古い。
壁には苔が生えていて、長い間使われていないように見える。
だが、その入口だけは妙に綺麗だった。
最近、人が出入りしている。
七人は迷うことなくその建物へ入っていく。
「ここに何があるんだ?」
「分かりません」
リナも建物を見つめている。
俺は少し考えた。
今すぐ中へ入るのは危険だ。
まずは外から様子を見る。
そう決めたときだった。
建物の中から声が聞こえた。
「今日も来たか」
「はい」
「では、始めよう」
俺は息を止めた。
別の声だ。
さっきまでいた冒険者たちのものではない。
誰かが、あの建物の中で待っている。
「リナ」
「はい」
「中に誰かいる」
「……はい」
「何人?」
リナが集中する。
しばらくして、小さく答えた。
「冒険者たち以外に……一人です」
「一人か」
俺は建物を見る。
七人の冒険者を集めている人物。
その目的はまだ分からない。
だが、少なくとも南の森で起きていることに関係している可能性は高い。
そして――。
その人物の気配は、普通の人間とは少し違っていた。
「……どうする?」
俺が聞くと、リナは静かに短剣へ手を添えた。
「中を確認しますか?」
「ああ」
俺は頷いた。
「でも、まだ戦うつもりはない」
まずは話を聞く。
敵意があるかどうかも確認する。
もし敵なら、《チャット》は使えない。
その時は、別の方法を考えるしかない。
俺たちは建物の入口へ向かった。
そして、扉の前で足を止める。
中から、また声が聞こえた。
「では、今日も一人ずつ話してもらおう」
何を話すのか。
俺たちはまだ知らない。
だが、この場所が行方不明になった冒険者たちと関係していることだけは、ほぼ間違いなかった。




