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第34話 張り込み

 翌朝。


 俺たちは、いつもより早く冒険者ギルドへ向かった。


 昨日、南の森で見つけた冒険者――カイル。


 あいつから何か分かるかもしれない。


 そう思っていた。


 だが。


「……昨日の冒険者は?」


 受付で尋ねると、受付嬢の表情が曇った。


「……カイルさんのことですか?」


「ああ」


 少しの沈黙。


「今朝、宿で亡くなっているのが見つかりました」


「……」


 言葉が出なかった。


「殺されたんです」


「殺された?」


「はい」


 受付嬢は声を落とす。


「宿の部屋で発見されました。争った形跡はほとんどなかったそうです」


「誰に?」


「分かっていません」


「目撃者は?」


「今のところいません」


 俺は拳を握った。


 昨日、森で見つけたばかりだった。


 何かを聞き出せると思っていた。


 それなのに――。


「何か情報は?」


「……ほとんどありません」


「何も?」


「はい」


 受付嬢は首を横に振る。


「カイルさんが最後に何をしていたのかも、誰と接触していたのかも分かっていません」


「……そうか」


 これで、振り出しに戻った。


 いや。


 むしろ、最初より悪い。


 行方不明者がいる。


 南の森へ向かった者がいる。


 そして、そのうち一人を見つけたと思ったら殺された。


 事件の情報は何一つ増えなかった。


「遺体を見せてもらうことは?」


「難しいと思います。すでに衛兵が調べています」


「分かった」


 俺はそれ以上聞かなかった。


 今ここで考えても仕方がない。


 俺たちだけで調べても、情報がない以上は進めない。


 ギルドを出る。


 外へ出たところで、俺は足を止めた。


「……どうする?」


 リナに尋ねる。


「分かりません」


 珍しく、リナも即答しなかった。


「カイルさんから聞けることは、もうありません」


「ああ」


「他の行方不明者についても、今のところ手掛かりはありません」


「そうだな」


 俺は南の方向を見る。


 街の向こうに森がある。


 昨日までは、昼間に調べれば何か分かると思っていた。


 だが、これ以上森を調べても、何も見つからない可能性が高い。


 それなら。


「直接見るしかないな」


「何をですか?」


「夜に、誰かが森へ向かうところを」


 リナが俺を見る。


「南門で張り込もう」


「……分かりました」


 俺たちは南門へ向かった。


 門番に事情を話す。


「夜までここにいる?」


「ああ」


「やっぱり行方不明者のことか?」


「最近、夜に森へ向かう冒険者について調べてる」


 門番は少し考えた。


「確かに、最近そういう奴はいる」


「だから、実際に見てみたい」


「分かった。ただし、問題を起こすなよ」


「もちろん」


 それから俺たちは、南門の近くにある建物の陰で待つことにした。


 門から少し離れているため、通行人からは目立ちにくい。


 日が傾いていく。


 街の明かりが一つ、また一つと灯っていく。


 冒険者たちも次々と街へ戻ってくる。


 俺は南門を眺め続けた。


「まだか」


「焦る必要はありません」


「分かってる」


 リナは俺よりもずっと静かに周囲を見ている。


 【死影】になってから、リナの感覚は以前とは比べものにならない。


 少しの物音にも反応し、周囲の気配を確認している。


 俺はそんなリナに任せながら、門を見続けた。


 そして――。


 完全に日が落ちた。


 南門を通る人間が少なくなる。


 門番たちも、夜間の警戒へ切り替わっている。


「今日は誰も来ないかもしれないな」


「そうですね」


 俺がそう言った直後だった。


 リナが視線を動かした。


「……来ます」


「誰かいる?」


「はい」


 俺も南門を見る。


 一人の男が歩いてくる。


 冒険者らしい格好だ。


 武器も持っている。


 だが、急いでいる様子はない。


 ただ真っ直ぐに門へ向かっている。


「門番に止められるかな」


「分かりません」


 男が門番の前を通る。


 何か話している。


 しかし、門番は止めなかった。


 男はそのまま門を抜けた。


 そして――南へ向かって歩き始める。


 森の方向へ。


「……」


 俺は立ち上がりかける。


 だが、まだ動かない。


「リナ」


「はい」


「見ておこう」


「分かりました」


 男は街道を歩いていく。


 振り返ることもない。


 迷っている様子もない。


 まるで、最初から行き先が決まっているかのように。


 俺たちは距離を保ちながら、その後ろ姿を追う。


 だが、まだ声はかけない。


 まずは、どこへ行くのか確認する。


 街道の先。


 木々が見えてくる。


 男は止まらない。


 そのまま森へ向かっていく。


「……本当に森へ行くのか」


「そうみたいです」


 男の姿が、森の入口へ近づいていく。


 そして。


 一歩。


 森の中へ入った。


 俺はリナを見る。


 リナも俺を見る。


「追う?」


「どうしますか?」


 俺は少し考えた。


 カイルのことが頭をよぎる。


 何も分からないまま森から戻ってきた。


 そして、翌朝には殺されていた。


 今、目の前にいる男も同じようになるとは限らない。


 だが――。


 このまま見逃すわけにもいかない。


「少しだけ追う」


「はい」


 俺たちは男の後を追い、森へ入った。


 夜の森は、昼間とはまったく違っていた。


 月明かりだけが木々の隙間から差し込んでいる。


 男の姿は、少し先に見える。


 そして俺たちは、まだ知らなかった。


 この男が、なぜ夜の森へ向かったのか。


 その理由を。

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