第32話 共通点
宿へ戻った俺たちは、部屋で今日のことを整理していた。
新しい街に来てから、まだそれほど時間は経っていない。
だからこそ、分からないことが多い。
街のことも、冒険者たちのことも。
そして――昨日から耳にするようになった、行方不明者のことも。
「何人くらいいなくなっているんだろうな」
「正確な人数は、まだ分かりませんね」
リナが答える。
「ギルドで聞いてみるか」
「はい」
俺たちは翌日、朝から冒険者ギルドへ向かった。
ギルドの中は、今日も冒険者たちで賑わっている。
俺は受付へ向かう。
「おはようございます」
「おはようございます」
昨日とは別の受付嬢だった。
「少し聞きたいことがあるんだけど」
「はい。何でしょうか?」
「最近、冒険者が行方不明になっているって聞いたんだけど」
受付嬢の表情が少し変わった。
「……その件ですか」
「ああ。何人くらいいる?」
「現在、確認されているだけでも数名います」
「数名か」
「はい」
「最後に確認された場所は?」
「人によって違いますね」
なるほど。
全員が同じ場所で消えたわけではないらしい。
「何か共通点はある?」
「今のところ、はっきりしたものはありません」
「そうか」
俺は少し考える。
「失踪する前に、何か依頼を受けていたとかは?」
「確認してみます」
受付嬢が記録を調べ始めた。
俺はその様子を黙って待つ。
しばらくして、受付嬢が顔を上げた。
「失踪した方の記録を見る限り、直前に依頼を受けていた方は少ないですね」
「少ない?」
「はい。何人かは依頼を受けていましたが、失踪した当日に新しい依頼を受けた記録はありません」
「つまり、依頼中に消えたわけじゃない人もいる?」
「そういうことになります」
「なるほど」
これは少し気になる。
冒険者が依頼中に帰ってこないなら、魔物に襲われたとか、事故に遭ったという可能性も考えやすい。
だが、依頼すら受けていないのなら話は変わってくる。
「失踪する前に、何か変わった行動をしていた人はいない?」
「そこまでは……」
受付嬢が困ったように答える。
「ただ、何人かについては、最後に目撃された場所が南側だったという話があります」
「南側?」
「はい」
「南門の近く?」
「そうです」
俺はリナを見る。
リナも黙ってこちらを見ていた。
「その人たちは、南門から出た?」
「そこまでは記録がありません」
「そうか」
まだ情報が足りない。
「実際に見た人に話を聞くことはできる?」
「南門の門番なら、何か知っているかもしれません」
「分かった。行ってみる」
「お気をつけください」
俺たちはギルドを出た。
南門へ向かう途中、俺は考えていた。
失踪者。
依頼を受けていない者もいる。
そして、最後に南側で目撃された者もいる。
偶然かもしれない。
でも、調べてみる価値はありそうだ。
「リナ」
「はい」
「南門の人に聞いてみよう」
「分かりました」
南門へ着く。
門番に事情を話すと、一人の男がこちらへやってきた。
「失踪した冒険者のことを聞きたいんだって?」
「ああ」
「俺が知ってる範囲なら答えるぞ」
「助かる」
俺は質問を始めた。
「最近、失踪した冒険者を見たことはある?」
「何人か見たな」
「最後に見たのは?」
「夜だった」
「夜?」
「ああ」
俺は少し意外に思った。
「南門を通った?」
「そうだ」
「森へ?」
「……そうだったと思う」
「一人で?」
「俺が見たときはな」
男は腕を組む。
「ただ、それが失踪した連中だったかは、そのときには分からなかった」
「当然だな」
その場では、ただ森へ向かう冒険者にしか見えない。
「何か変わった様子は?」
「特にない」
「急いでいた?」
「いや」
「誰かと待ち合わせしていたような感じは?」
「それもなかったな」
「じゃあ、普通に森へ向かった?」
「ああ」
俺は考える。
夜に森へ。
それ自体は冒険者ならあり得る。
だが――。
「その人たち、何か依頼を受けていたのか?」
「そこまでは知らんな」
「そうか」
俺は礼を言った。
門番との話を終え、俺たちは少し離れた場所へ移動する。
「どう思う?」
俺が聞くと、リナは少し考えてから答えた。
「まだ何とも言えません」
「だよな」
「ただ、気になる点はあります」
「南の森?」
「はい」
リナが森のある方向を見る。
「夜に森へ向かう人が何人もいて、その後に行方不明になっているのなら、無関係とは考えにくいです」
「確かに」
俺も南を見る。
街の外に広がる森。
昼間に見れば、ただの森にしか見えない。
魔物がいる場所なのだから、冒険者が向かうこと自体は珍しくないだろう。
それでも、何人もの失踪者がその方向へ向かっていたというのは気になる。
「もう一度、昼間に行ってみるか」
「はい」
「夜はまだ行かない」
「そのほうがいいと思います」
俺たちはその日のうちに準備を整えることにした。
必要なものを買い、森へ向かうための準備をする。
その途中、俺はふと思った。
「そういえば」
「どうしました?」
「失踪した冒険者たちは、全員が夜に森へ向かっていたのか?」
「……分かりません」
「だよな」
まだそこまでは確認できていない。
門番が見たのは、そのうちの何人かだけだ。
他の失踪者についても同じなのか。
それを確かめる必要がある。
「明日、森を見たあとで、もう一度ギルドで話を聞こう」
「はい」
宿へ戻る。
部屋の窓から外を見ると、すでに日が傾き始めていた。
街の人々が家へ戻っていく。
冒険者たちも、今日の活動を終えて戻ってきている。
俺は窓の外を眺めながら考えた。
行方不明になった冒険者たち。
依頼を受けていない者もいる。
そして、何人かは夜に南の森へ向かっていた。
ただの偶然なのか。
それとも――。
「……明日になれば、少しは分かるか」
俺は窓を閉めた。
今はまだ、何も決めつけるべきじゃない。
分からないことは、調べればいい。




