第31話 背中の違和感
翌朝。
俺はいつもより少し早く目を覚ました。
窓から差し込む光が、部屋の中をゆっくりと照らしている。
「……朝か」
ベッドから起き上がり、窓の外を見る。
昨日と変わらない街の景色。
道を歩く人。
店を開ける商人。
朝から忙しそうに動いている冒険者たち。
平和そうに見える。
けれど、この街では最近、冒険者が何人も行方不明になっている。
しかも、最後に目撃された場所は南側。
昨日ギルドで聞いた情報だけでは、何も分からない。
「レオン様」
後ろから声が聞こえた。
振り返ると、リナが起きていた。
「おはようございます」
「おはよう、リナ」
「今日は南側へ行くのですよね?」
「ああ」
俺は頷いた。
「ただ、昨日も言ったけど、今日は調査だけだ」
「分かっています」
「何かあっても、すぐに戦うとは限らない」
「はい」
リナは素直に頷いた。
こういうところは本当に助かる。
俺たちは簡単に準備を済ませ、宿を出た。
朝の街は昨日よりも人が多かった。
大通りには商人が増え、荷物を運ぶ馬車も走っている。
俺たちは人の流れに紛れるようにして、南側へ向かった。
しばらく歩く。
中心街から離れるにつれて、少しずつ人が減っていく。
店も少なくなってきた。
「この辺りから、少し雰囲気が違いますね」
「そうだな」
建物の間から外壁が見える。
その向こう側には街の外へ続く道があるようだ。
俺は周囲を見渡した。
特に怪しいところはない。
だからこそ、慎重に調べる必要がある。
「まずは人に聞いてみよう」
「誰にですか?」
「冒険者がいい」
俺たちは近くを歩いていた冒険者らしき男に声をかけた。
「すみません」
「ん?」
「この辺りについて少し聞きたいんですが」
「俺に?」
「はい」
男は少し不思議そうな顔をした。
「何が知りたいんだ?」
「南側では、最近何か事件があったんですか?」
「……事件?」
男は少し考える。
「まあ、冒険者が何人か帰ってきてないって話なら聞いたことがある」
「やっぱりそうですか」
「ああ。ただ、珍しいことでもないだろ」
「そうなんですか?」
「この辺りは魔物も出るからな。単純に帰れなくなっただけかもしれない」
なるほど。
確かに、それもあり得る。
冒険者が行方不明になった。
それだけで誰かに襲われたと決めつけるのは早い。
「ありがとうございました」
「いいってことよ」
男はそのまま歩いていった。
俺はその背中を見送る。
「どう思いますか?」
リナが聞いてきた。
「まだ何とも言えないな」
「はい」
「ただ、一つ気になる」
「何でしょう?」
「昨日の受付嬢も、南側について話したときに少し反応した」
「……確かに」
偶然なのか。
それとも、この街では南側について何か知られているのか。
俺は考えながら歩き続けた。
しばらくすると、街の外へ続く門が見えてきた。
その近くに、冒険者らしき人間が数人集まっている。
俺たちは少し離れた場所から様子を見ることにした。
「最近、また一人戻ってきてないらしいぞ」
「またか?」
「ああ。昨日出ていった連中だ」
「南側だろ?」
「そうだ」
聞こえてきた会話に、俺は足を止めた。
昨日の情報と一致している。
俺はリナを見る。
リナもこちらを見ていた。
小さく頷く。
俺は《チャット》を使うことを考えた。
だが、すぐには使わなかった。
相手に敵意があるかどうかも分からない。
そもそも、今は普通に会話をしているだけだ。
無理に能力を使う必要はない。
「まずは自分たちの目で確認しよう」
「はい」
俺たちは門を出た。
南へ続く道。
街から少し離れると、草原が広がっていた。
さらにその先には森が見える。
「昨日の三人組がいた場所とは、少し違いますね」
「ああ」
あの三人と遭遇した場所は、ここからさらに離れている。
ただ、完全に無関係とも言い切れない。
俺たちは慎重に歩いた。
しばらくすると、道の端に何かが落ちているのが見えた。
「……あれは?」
リナが指を向ける。
俺は近づいて確認する。
地面に、小さな金属片が落ちていた。
「何かの装備でしょうか?」
「たぶん」
拾い上げて見る。
冒険者が使う装備の一部に見える。
だが、それだけでは何も分からない。
「少し調べてみる」
俺は周囲を見渡した。
地面にはいくつか足跡が残っている。
複数人分。
そして、その足跡は道から外れ、森の方へ続いていた。
「リナ」
「はい」
「どう思う?」
「誰かが森へ入った跡だと思います」
「俺もそう思う」
問題は、その人物が誰なのか。
そして、なぜ森へ入ったのか。
俺は足跡を追おうとして、一度立ち止まった。
「……待て」
「はい?」
何かがおかしい。
森の入口。
足跡。
装備の一部。
情報だけなら、行方不明者が森へ入った可能性が高い。
でも――。
「この足跡、戻ってきた跡がない」
「……!」
リナも気づいたようだった。
「つまり」
「ああ」
森へ入った人物は、少なくとも同じ道から戻ってきていない。
俺は森を見る。
風に揺れる木々。
特に変わった様子はない。
それでも、嫌な感じがする。
「今日はここまでにしよう」
「え?」
「いきなり森の中へ入るのは危険だ」
情報が少なすぎる。
俺たちはこの街に来たばかりだ。
何が起きているのかも分からない。
そんな状態で森に入るのは、ただの無謀だ。
「一度ギルドへ戻って、もう少し情報を集めよう」
「分かりました」
俺たちは来た道を戻り始めた。
だが、数歩進んだところで、俺は足を止めた。
「……リナ」
「はい」
「後ろを見るな」
「……誰かいるんですか?」
「分からない」
気配は感じない。
けれど、何かがおかしい。
俺はゆっくりと歩きながら、周囲の景色を確認した。
何もいない。
それでも――。
誰かに見られているような感覚だけが残っている。
「気のせいか……?」
「レオン様」
「どうした?」
「……私も感じます」
リナが小さな声で答えた。
俺は立ち止まらなかった。
「なら、急いで戻ろう」
「はい」
俺たちは街へ向かって歩く。
森の中から吹いてきた風が、俺たちの背中を撫でた。
俺は一度だけ振り返る。
そこには、何もなかった。
ただ、木々が風に揺れているだけだった。
俺は前を向く。
まだ何も分からない。
だからこそ、焦るわけにはいかない。
この街で何が起きているのか。
そして、南側で何が起きているのか。
それを知るために、まずは情報を集める。
それが今の俺たちにできることだった。
――――――――――
〖ステータス〗
名前:レオン・アストレア
職業:〖????〗
役職:貴族
Lv:7
HP:390
MP:330
攻撃:175
防御:138
魔力:158
敏捷:135
運:44
スキル:
《チャット》
AIとの会話
遠隔チャット
《剣術》
《???》
《因果視》
《魔力循環》
《異常耐性》
《????》
《先読》
称号:
アストレア家の嫡男
貴族
冒険者
〖ステータス〗
名前:リナ
職業:〖死影〗
Lv:13
HP:225
MP:94
攻撃:147
防御:57
魔力:36
敏捷:190
運:41
スキル:
短剣術
隠密
気配察知
暗殺術
《急所看破》
《影歩》
《致命追撃》
《殺気遮断》
《影縫い》
《死影の一撃》
称号:
レオンの護衛
死影
暗殺者




