第30話 行方不明
森を抜けると、目の前に大きな街が見えてきた。
遠くからでも分かるほど高い外壁。
その向こうには、いくつもの建物が並んでいる。
街道には馬車が行き交い、徒歩で街へ向かう人の姿も多い。
「……思ったより大きいな」
「そうですね」
隣を歩くリナも、街を見上げている。
ここまで来れば、ようやく一息つけそうだ。
俺は小さく息を吐いた。
「まずは街に入ろう」
「はい」
俺たちは街道を進み、門へ向かった。
近づくにつれて、人の数が増えていく。
商人。
旅人。
冒険者。
様々な人間が門の前に列を作っていた。
「結構並んでるな」
「急ぐ必要はありませんから、大丈夫です」
「そうだな」
俺たちは列の最後尾についた。
しばらく待っていると、前の方から門番の声が聞こえてくる。
「身分証を」
「これでいいか?」
「ああ。問題ない。通っていいぞ」
どうやら身分証を確認しているらしい。
俺は自分の冒険者カードを取り出した。
やがて俺たちの番になる。
「次」
門番の男がこちらを見る。
「身分証を出してくれ」
「はい」
俺は冒険者カードを渡した。
門番はカードを確認し、それから俺の顔を見る。
「冒険者か」
「そうです」
「どこから来た?」
一瞬だけ考える。
どこまで話すべきか。
俺たちが以前いた街の名前。
ダンジョン。
神殿。
そして、あの三人組との戦闘。
どれも今ここで話す必要はない。
「西の方からです。旅をしていて、ここへ来ました」
「そうか」
門番はそれ以上追及しなかった。
次にリナを見る。
「そっちは?」
「レオン様の護衛です」
リナが答える。
「身分証は?」
「こちらです」
リナも冒険者カードを渡す。
門番はカードを確認すると、二人に返した。
「問題ない。入っていいぞ」
「ありがとうございます」
俺たちは門をくぐった。
街の中へ入った瞬間、空気が変わった。
人が多い。
森とは比べ物にならない。
道の両側には店が並び、露店からは料理の匂いが漂っている。
冒険者らしき人間も多い。
「賑やかですね」
「ああ」
俺は周囲を見渡した。
そして、すぐに一つのことを意識する。
目立たないこと。
それが重要だ。
俺たちはこの街について何も知らない。
それなのに、自分たちの能力やダンジョンでの出来事を話すのは危険すぎる。
「リナ」
「はい」
「街に入ったら、しばらく慎重に行動しよう」
「分かりました」
「俺たちがどんな場所に来たのかも分からないからな」
「はい」
リナは素直に頷いた。
やっぱり話が早い。
俺たちは大通りを歩いていく。
まずは宿を探すことにした。
しばらく歩いていると、通りに面した小さな宿を見つけた。
「ここにするか」
「はい」
中へ入る。
受付には中年の女性が一人いた。
「いらっしゃい。泊まりかい?」
「はい。二人でお願いします」
「何泊する?」
「とりあえず三日で」
「分かったよ」
料金を支払い、部屋の鍵を受け取る。
俺たちは二階へ上がった。
部屋にはベッドが二つ。
机が一つ。
窓もある。
決して豪華ではないが、旅の途中で泊まるには十分だった。
「悪くないな」
「はい」
荷物を置く。
俺は椅子に座った。
「まず、これからの予定を決めよう」
「はい」
「今日は情報収集だけにする」
「冒険者ギルドへ行くのですか?」
「ああ」
「依頼は?」
「受けない」
俺は即答した。
「この街がどんな場所なのか分からないからな。まずは情報を集める」
「分かりました」
そう言ったところで、俺は一つ思い出した。
「……その前に」
「はい?」
「ステータスを確認しておこう」
ダンジョンを出てから、まだしっかり確認していない。
俺は意識を集中させる。
すると、目の前にステータス画面が表示された。
――――――――――
【ステータス】
名前:レオン・アストレア
職業:【????】
役職:貴族
Lv:7
HP:390
MP:330
攻撃:175
防御:138
魔力:158
敏捷:135
運:44
スキル:
《チャット》
AIとの会話
遠隔チャット
《剣術》
《???》
《因果視》
《魔力循環》
《異常耐性》
《????》
《先読》
称号:
アストレア家の嫡男
貴族
冒険者
――――――――――
「……」
俺は表示された数字を一つずつ確認していく。
以前と比べれば、かなり成長している。
特にHPとMPは大きく増えていた。
ダンジョンでの戦闘を考えれば、この成長にも納得できる。
ただ――。
俺は職業欄を見る。
【????】
やはり変わっていない。
「結局、これが何なのかは分からないままだな」
「神殿でも何も説明されませんでしたからね」
「そうなんだよな」
俺はスキル欄にも目を向ける。
いくつか見慣れないものがある。
それでも、すべての能力が明らかになっているわけではない。
むしろ、分からないものの方が多い。
「まあ、今すぐ全部分かる必要もないか」
俺はステータス画面を閉じる。
「リナも確認しておくか?」
「はい」
リナが頷く。
俺は少し横へ移動する。
すると、今度はリナのステータスが表示された。
――――――――――
【ステータス】
名前:リナ
職業:【死影】
Lv:13
HP:225
MP:94
攻撃:147
防御:57
魔力:36
敏捷:190
運:41
スキル:
短剣術
隠密
気配察知
暗殺術
《急所看破》
《影歩》
《致命追撃》
《殺気遮断》
《影縫い》
《死影の一撃》
称号:
レオンの護衛
死影
暗殺者
――――――――――
「……」
リナは自分のステータスをじっと見つめている。
「すごいですね」
「敏捷がかなり高いな」
「はい」
「俺よりずっと速い」
「レオン様も十分高いと思いますけど……」
「俺の場合は、いろいろと特殊だからな」
俺は苦笑する。
リナは【死影】。
俺は【????】。
二人とも、神殿へ行く前とは明らかに違う。
ただ、それがどこまでの力なのかはまだ分からない。
「まあ、今はいい」
俺は立ち上がった。
「まずはこの街について調べよう」
「はい」
俺たちは部屋を出た。
宿を出て、冒険者ギルドへ向かう。
街の中を歩いていると、冒険者らしき人間が多いことに気づいた。
この街は冒険者が多いらしい。
それなら、ギルドで情報を集めるのが一番早い。
しばらく歩くと、冒険者ギルドが見えてきた。
中へ入る。
受付。
依頼掲示板。
酒場。
以前利用していたギルドと、大きくは変わらない。
俺はまず掲示板へ向かった。
薬草採取。
魔物討伐。
護衛。
素材採取。
様々な依頼が並んでいる。
その中で、一枚だけ妙に目につくものがあった。
――捜索依頼。
「……」
俺は紙を読む。
最近、複数の冒険者が行方不明になっている。
最後に目撃された場所。
街の南側。
「レオン様」
隣からリナの声が聞こえる。
「これ……」
「ああ」
俺も同じことを考えていた。
南側。
その言葉を見た瞬間、森で遭遇した三人の男が頭に浮かぶ。
あの三人。
俺たちに敵意を向けてきた。
そして、最後には転移魔法陣を使おうとしていた。
偶然なのか。
それとも――。
俺は依頼書から目を離した。
「まだ決めつけるのは早い」
「はい」
「まずは情報だ」
俺たちは受付へ向かった。
「すみません」
「はい。どうしましたか?」
受付嬢が顔を上げる。
「この街について少し聞きたいことがあるんですが」
「分かる範囲でしたら」
「最近、冒険者の失踪が多いんですか?」
その瞬間。
受付嬢の表情が少しだけ変わった。
「……その話ですか」
「はい」
「最近、何人か戻ってきていません」
「最後に確認された場所は?」
「南側です」
やはり。
「何か分かっていることは?」
「今のところ、詳しいことは何も」
受付嬢は少し困ったように答えた。
「冒険者の方には、南側へ行くときは十分注意するように伝えています」
「そうですか」
「何か気になることでも?」
「いえ。街に来たばかりなので、少し気になっただけです」
「そうでしたか」
俺はそれ以上聞かなかった。
必要以上に踏み込めば、不自然に思われるかもしれない。
情報は得られた。
それで十分だ。
俺たちはギルドを出た。
外はもう夕方になっていた。
「どうしますか?」
「今日は戻ろう」
「はい」
宿への道を歩きながら、俺は南側の方角を見る。
建物に遮られて、その先を見ることはできない。
だが、頭の中ではいくつもの情報が繋がり始めていた。
三人組。
転移魔法陣。
冒険者の失踪。
南側。
まだ確証はない。
だからこそ、焦ってはいけない。
「……明日は南側について調べる」
「分かりました」
「ただし、まだ戦う必要はない」
「はい」
「情報を集めるだけだ」
リナが頷く。
宿へ戻り、部屋へ入る。
扉を閉めると、ようやく周囲を気にせず話せるようになった。
俺は椅子に座り、今日一日のことを整理する。
新しい街。
冒険者の失踪。
南側。
森で遭遇した三人組。
転移魔法陣。
どれも繋がっているように見える。
だが、まだ何も分からない。
「焦る必要はないな」
「はい」
「まずは明日、南側を見てみよう」
「承知しました」
俺は窓の外を見る。
街には少しずつ夜の帳が下り始めていた。




