第29話 街へ
洞窟を抜けてから、しばらく歩いた。
木々の隙間から差し込む光が、やけに眩しい。
ずっと薄暗い場所にいたせいか、地上の明るさに目が慣れない。
「……やっと出られましたね」
隣を歩くリナが、小さく息を吐いた。
「ああ」
俺も空を見上げる。
青い。
それだけのことなのに、妙に安心した。
ダンジョンの中では、いつ何が起こるか分からなかった。
深層。
神殿。
そして、俺自身に起きた職業の変化。
考えれば考えるほど、分からないことばかりだ。
「レオン様?」
「いや、何でもない」
「そうですか?」
「ああ。まずは街を探そう」
「はい」
俺たちは森の中を進んだ。
食料にはまだ余裕がある。
水も問題ない。
だが、いつまでも森を歩き続けるわけにはいかない。
何より、今の俺たちには情報が必要だった。
ここがどこなのか。
近くに街があるのか。
そして――俺たちがダンジョンで経験したことを、どう扱うべきなのか。
神殿のこと。
俺の【????】という職業。
リナの【死影】。
そして、洞窟を抜けた後に現れたあの存在。
分からないことが多すぎる。
だからこそ。
「リナ」
「はい」
「街に着いたら、できるだけ普通に行動しよう」
「……はい」
「ダンジョンのことも、神殿のことも話さない」
「分かりました」
「俺たちの能力についても、必要以上には話さない」
「承知しました」
リナは迷うことなく頷いた。
やっぱり、リナがいてくれると助かる。
俺一人なら、もっと不用意に動いていたかもしれない。
「それと――」
「はい?」
「俺たちがどこから来たのか聞かれても、適当に答える」
「分かりました」
これでいい。
今の俺たちは、あまりにも特殊すぎる。
特に俺は【????】なんていう訳の分からない職業になっている。
そんなものを他人に知られていいとは思えない。
リナも【死影】。
もし、この職業が珍しいものなら、それだけでも目立つ可能性がある。
慎重になりすぎるくらいで丁度いい。
そう考えながら歩いていると――。
リナが突然、足を止めた。
「レオン様」
「どうした?」
「人の気配があります」
俺も立ち止まる。
「何人?」
「……三人です」
リナは森の奥へ視線を向けた。
俺にはまだ何も見えない。
だが、しばらくすると。
木々の向こうから三人の男が姿を現した。
三人とも武器を持っている。
服装を見る限り、冒険者だろうか。
「おい」
先頭の男が声をかけてきた。
「こんなところで何してる?」
「ダンジョンから出てきたところだ」
「ダンジョン?」
男が少し驚いた顔をする。
「ああ」
「よく無事だったな」
「運が良かったんだ」
俺は笑って答えた。
余計なことは言わない。
それだけを意識する。
「街へ行くのか?」
「そのつもりだ」
「なら、俺たちと一緒に来るか?」
男がそう言った。
「この辺りは道が分かりにくい。俺たちも街へ向かうところだ」
「……そうか」
助かる。
正直、街の場所が分からない状態で森を歩き続けるのは避けたかった。
「お願いする」
「そうか。じゃあ、ついてきな」
三人の男が歩き始める。
俺とリナも、その後ろを歩いた。
だが。
何かがおかしい。
理由は分からない。
ただ、妙な違和感がある。
俺は歩きながら、先ほどの三人を観察した。
武器。
服装。
歩き方。
特におかしなところはない。
それなのに、何かが引っかかる。
そこで、ふと思い出した。
《チャット》。
俺は歩きながら、先頭の男へ意識を向けた。
試してみる。
――《チャット》。
…………。
何も起こらない。
「……?」
もう一度試す。
やはり同じだ。
俺は後ろの二人にも試してみる。
――接続できない。
――接続できない。
そこで、俺は気付いた。
《チャット》は誰とでも繋がるわけじゃない。
敵意を持っている相手とは、繋がらない。
なら。
「……リナ」
「はい」
「少し警戒してくれ」
リナの歩みが僅かに止まる。
「分かりました」
それ以上、リナは聞かなかった。
俺も説明する必要はない。
しばらく歩く。
三人の男も、特に何かをしてくる様子はない。
だが、警戒は解けない。
そして。
「なあ」
先頭の男が突然振り返った。
「なんだ?」
「お前ら、本当に冒険者か?」
「……どういう意味だ?」
「いや」
男が笑う。
「少し気になっただけだ」
その瞬間。
俺は剣の柄へ手を添えた。
男の目が変わった。
さっきまでの友好的な雰囲気が消える。
「リナ」
「はい」
リナも短剣を抜いていた。
「やっぱり敵だったな」
「そのようですね」
三人の男が武器を抜く。
「悪いな」
男が言った。
「ここで死んでもらう」
「理由くらい聞いてもいいか?」
「それを話す必要はない」
なるほど。
完全に敵だ。
俺は剣を抜いた。
「リナ」
「はい」
「無理はするな」
「レオン様も」
リナが一歩前へ出る。
次の瞬間。
その姿が消えた。
「なっ――」
男の背後へ回り込んだリナが、短剣を振る。
男は咄嗟に振り返り、剣で受け止めた。
――キンッ!
「速い……!」
男が驚く。
リナはそのまま距離を取った。
俺も目の前の男へ向かって走る。
「はぁっ!」
剣を振る。
男が受け止める。
――ガキィン!
腕に衝撃が走る。
「くっ……!」
だが、押し負けているのは向こうだった。
俺はさらに力を込める。
男が後ろへ下がる。
「なんだ、この力……!」
俺は剣を振り抜いた。
男が横へ飛んで避ける。
その間にも、リナは敵を圧倒していた。
姿を消したように動き、相手の死角へ回り込む。
【死影】。
神殿で選んだ、この職業。
その力を、リナ自身も少しずつ理解し始めているようだった。
「そこです」
「っ!」
短剣が男の腕をかすめる。
「ぐっ!」
男が距離を取った。
残った一人が、突然後ろへ下がる。
「逃げる気か!」
俺が追おうとした、そのとき。
「レオン様!」
リナの声が響いた。
俺は足を止める。
「どうした?」
「地面を!」
男の足元。
そこには魔法陣が描かれていた。
「……魔法陣?」
淡い光が広がっていく。
「転移系です!」
「転移……!」
男が笑った。
「気付くのが遅かったな」
魔法陣の光が強くなる。
だが。
「させるか!」
俺は剣を振り下ろした。
――バキッ!
魔法陣の一部が砕ける。
「なっ!」
光が大きく揺らぐ。
「リナ!」
「はい!」
リナも魔法陣へ近づき、短剣を突き立てた。
――パァン!
魔法陣が弾ける。
光が消えた。
「……転移できなかった?」
「そのようですね」
男が呆然と魔法陣を見ている。
俺は剣を構えた。
「もう終わりだな」
三人の男は顔を見合わせた。
だが、次の瞬間。
3人が森の奥へ走り出した。
「待て!」
俺は追おうとした。
しかし、リナが腕を掴んだ。
「レオン様」
「どうした?」
「深追いは危険です」
「……」
俺は森の奥を見る。
確かに。
ここがどこかも分からない。
敵の仲間が他にいる可能性もある。
「分かった」
剣を収める。
俺たちはその場を離れることにした。
しばらく歩いたところで、俺は口を開いた。
「リナ」
「はい」
「さっきの三人……」
「はい」
「ただの盗賊らしくなかった」
「私もそう思います」
俺は考える。
偶然襲われたのか。
それとも。
俺たちがダンジョンから出てきたことを知っていたのか。
どちらにしても。
今まで以上に慎重になる必要がある。
「街に着いたら、しばらく目立たないようにしよう」
「分かりました」
リナが頷く。
俺も前を見る。
木々の向こうに、遠く建物らしきものが見え始めていた。
街だ。
ようやく、街に辿り着けそうだった。
だが俺はまだ知らない。
この街で起きている事件が、さっきの三人と繋がっていることを。
そして――。
俺たちが、この街で新たな騒動に巻き込まれていくことを。
【ステータス】
レオン・アストレア
職業:【????】
役職:貴族
Lv:7
HP:390
MP:330
攻撃:175
防御:138
魔力:158
敏捷:135
運:44
スキル:
《チャット》
AIとの会話
遠隔チャット
《剣術》
《???》
《因果視》
《魔力循環》
《異常耐性》
《????》
《先読》
称号:
アストレア家の嫡男
貴族
冒険者
リナ
職業:【死影】
Lv:13
HP:225
MP:94
攻撃:147
防御:57
魔力:36
敏捷:190
運:41
スキル:
短剣術
隠密
気配察知
暗殺術
《急所看破》
《影歩》
《致命追撃》
《殺気遮断》
《影縫い》
《死影の一撃》
称号:
レオンの護衛
死影
暗殺者




