第15話 秘密の共有
薬草採取の依頼を終えた翌日。
俺とリナは、次の目的地へ向かう街道を歩いていた。
昨日の依頼は簡単なものだった。
けれど、これから先はそうはいかないだろう。
街を離れれば、魔物と遭遇する可能性も増える。
そんなことを考えながら歩いていると、俺はふと口を開いた。
「リナ」
「はい」
「少し話したいことがある」
リナがこちらを見る。
「何でしょうか?」
「《チャット》についてだ」
「《チャット》……」
リナは首を傾げる。
「レオン様がお持ちのスキルですね」
「ああ」
「何か新しいことでも?」
「いや。今まで詳しく話してなかっただけだ」
俺は周囲を確認する。
街道には、俺たち以外の人影はない。
「これからも一緒に旅をするなら、ある程度は知っておいてもらった方がいいと思って」
「承知しました」
俺は話し始める。
「まず、《チャット》には会話シミュレーションっていう機能がある」
「会話シミュレーション……?」
「誰かと話す前に、その人がどう返してくる可能性があるかを予測できる」
「相手の考えを直接読むわけではないのですね?」
「そう。あくまでシミュレーションだ」
「実際の返答とは異なる可能性も?」
「もちろん」
リナは納得したように頷いた。
「それなら、交渉などには役立ちそうですね」
「かなり便利だよ」
俺は続ける。
「それと、もう一つある」
「まだあるのですか?」
「ああ」
俺は少し迷ってから言った。
「昨日、エレナと話してただろ?」
「はい」
「実はあれも《チャット》の機能なんだ」
「……あれが?」
リナは驚いた顔をする。
「はい。昨日、レオン様とエレナ様が突然黙って画面を見ていたので、何をしているのかと思っておりました」
「説明してなかったからな」
「それで、あれは何だったのでしょうか?」
「遠隔チャットっていう」
「遠隔……」
「一度直接会った相手と、お互いに同意すれば、離れていても文章で会話できる」
「離れていても?」
「うん」
リナはしばらく言葉を失った。
「……それは、かなり凄い能力ですね」
「俺もそう思う」
「昨日エレナ様と話していた時には、まさかそのような機能だとは……」
「俺も最初は驚いたよ」
「それなら、エレナ様からの情報もすぐに受け取れるのですね」
「そういうこと」
「手紙よりも遥かに便利ですね」
「だから、情報収集を頼んだ」
リナは頷く。
「なるほど」
少しの沈黙。
そして、リナが俺を見る。
「レオン様」
「ん?」
「なぜ、私に教えてくださるのですか?」
俺は少し考えた。
けれど、答えはすぐに出た。
「リナだから」
「……私だから、ですか?」
「ああ」
俺は前を向いたまま続ける。
「俺はお前を信頼してる」
リナが黙る。
「これからも俺のそばにいてくれるんだろ?」
「もちろんでございます」
「だったら、隠し続ける必要もないと思った」
「……ありがとうございます」
リナは静かに頭を下げる。
「レオン様から教えていただいたことは、決して他言いたしません」
「頼む」
「はい」
しばらく歩いた後、リナが小さく笑った。
「それにしても……」
「何?」
「レオン様の《チャット》というスキルは、本当に不思議ですね」
「俺もまだ全部分かってるわけじゃない」
「それでも、レオン様が私を信頼してくださったことは嬉しく思います」
「……そうか」
少し照れくさくなって、俺は前を向いた。
「これからもよろしく」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いいたします」
俺たちは再び街道を歩き始めた。
秘密を一つ共有した。
それだけなのに、今までより少しだけ、リナが近くにいるように感じた。




